「武雄アジア大学」の波紋
「武雄アジア大学」の波紋大阪特派員 木村さやか
2025/8/29 15:00木村 さやか- オピニオン
- コラム
後年の創作とされるが、「百聞は一見に如(し)かず」には「百見は一考に如かず」との続きがあるという。100回見るよりも自分で考える方が大事-という意味だ。SNSなどネットに真偽不明の情報が氾濫する中、本当にそうだと痛感した取材が最近あった。佐賀県武雄市に来春新設される四年制の私立大学「武雄アジア大学(仮称)」をめぐるもろもろである。
同大は、佐賀市で佐賀女子短大などを運営する学校法人「旭学園」(本部・佐賀市)が文部科学省に設置認可を申請。市が補助金19億5000万円(うち県が約6億5000万円を負担)を交付する。キャンパスは旧体育館跡地の市有地に建設中で、市が令和12年3月まで無償で、その後有償で貸し付ける契約を締結済みだ。
関心を持ったのは新大学の名称が発表された約2年前。Kポップといった韓国文化を学ぶ「現代韓国学部」が目玉だとの報道に驚き、「特定の外国勢力のサイレント・インベージョン(静かなる侵略)の拠点になりかねない」と懸念する声も聞いた。自治体が巨額の補助金を投じ誘致する是非は注視すべきだろうと思った。
佐賀県西部に位置する武雄市の人口は約4万7千人。大学への補助金を計上した今年度の一般会計当初予算案の総額は約308億4000万円で過去最大規模となったが、議会は非公開の特別委員会で審議の末、賛成多数で可決した。
予定地ではキャンパス建設が進むが、今も懸念の声がある。市民団体「武雄の未来を守る会」は7月中旬、市内外1025人から集めた反対署名を小松政(ただし)市長(49)宛てに提出。補助金は「市民合意を得ていない」として支出撤回を求めた。代表世話人の野田尚之さん(60)は、「議会の審議は不十分で、市民の合意を得たといえるものではない」と話した。
大学誘致は小松市長の肝いりだ。佐賀は全国で最も四年制大学が少ない県の一つで、国立の佐賀大(佐賀市など)と私立の西九州大(神埼市など)の2校のみ。6年度の大学進学率は全国44位の48・4%で、全国平均(約59%)より10ポイント以上低い。四年制大学に進む県内の高校生の8割は県外を選択しており、毎年3千人が流出している。
取材に応じた小松市長は「子供たちに学びの選択肢を用意したい」とねらいを語った。旭学園への支援は財政見通しを十分検討、判断したと述べた。だが、旭学園の経常補助金比率は45%を超えており、財務状況は厳しい。そもそも、少子化が進む中で地方の私立大学運営は年々厳しくなっている。
ただ、市が補助するのは施設整備費などで、運営費への支援は予定していない。小松市長は「万が一、運営が困難となれば、市民に損害が出ないよう対応する」と述べ、市による公立大学化などは「全く考えていない」と話した。
武雄アジア大をめぐっては「地方の学校法人の生き残り策」と報じられたが、学長に就任予定の国立民族学博物館名誉教授、小長谷(こながや)有紀さん(67)は「経営だけを考えるなら、武雄に四年制を新設したりはしない」と明言する。佐賀市内に法人が持つ施設を活用する方が経費もリスクも低いからだ。あえて踏み切ったのは県西部に大学がなく、進学率も低い現状を打破したいとの思いだという。「教育格差を是正して地域人材を育て、地方創生につなげるパイロットモデルとしたい」と力をこめた。
進学意向調査などを経て大学は「東アジア地域共創」の1学部・学科となり、140人を募集予定だ。地域を学び、大陸の玄関口であるアジアについて学ぶことで、国際的視野も培った「地域人材」を輩出する。「武雄アジア大」の名称には、そんな意味がこめられているという。
今月上旬に開かれた大学説明会には約20人が参加。俳優の大泉洋さんのブレークのきっかけとなったエフエム北海道の番組担当だった法政大大学院教授、増淵敏之さんが模擬講義した。公務員志望だという福岡県久留米市の女子生徒は、「まちづくりをしっかりと学び、地域おこしに貢献したい」と目を輝かせた。
自分で見聞きし、考え、動く。その重要性を改めて刻む。(きむら さやか)
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