勝又壽良のワールドビュー
問われる人型ロボの本質
ASIMOから現場AI
革命的な労働力代替効果
再定義される労働の意義
高市早苗首相は1月5日、三重県伊勢市での年頭記者会見で「財政の持続可能性を確保しながら投資すべき分野に大胆に投資していく」と発言した。具体例として、半導体や人工知能(AI)や宇宙分野を挙げた。また、「日本は(AIとロボットを組み合わせた)フィジカルAIで世界に打って出る」とも強調した。フィジカルAIとは、現場AIのことだ。首相が、念頭記者会見でここまで言い切った裏には、国策半導体企業ラピダスが、世界初の現場AI開発で見通しが立ったのだ。日本が、人型ロボットで勝利者になるだろう。
AIと言えば、「生成AI」を思い浮かべるが、技術はすでにフィジカルAI=現場AIへとシフトしている。静態的な生成AIから、ロボットやクルマを自律的に制御するフィジカルAIへ舞台を移している。日本が、この分野で世界をリードする技術的な見通しがついたことは、意外と知られていないのだ。
日本は,産業ロボットで世界シェア6割である。昨今のメディアを賑わしている人型ロボット(ヒュウマノイド)では、中国が先行している。マラソン大会へ人間と一緒に「出場」するなど話題を振りまいているのだ。このことから、人型ロボットでは中国が最先端というイメージを与えている。だが、「走ったり、踊ったり、お盆を運ぶ」ロボットは、本来の人型ロボットではない。人型ロボットとは、人間の本質的作業をどこまで代替できるかにかかっている。それは、ロボットが見て・聞いて・判断する「脳」を持つことを意味する。
問われる人型ロボの本質
現状では、人型ロボットの実用化にほど遠いのが実態だ。それにもかかわらず、メディアは、「日本の人型ロボットはなぜ出遅れたか」と報じている。例えば、「日本は、人型ロボットの開発でもリードしていたが、現在は米中の後塵を拝している」(『毎日新聞』1月2日付)と嘆いているのだ。だが、中国勢が開発する人型ロボットは、腕の力が弱いために、人間との協働作業には向かない根本的欠陥を持っている。そこで、「踊ったり、お盆を運ぶなどの軽作業」を前面に出してPRしているのであろう。
米国のロボット・メーカーは、人型ロボットが過大評価されていると「自己評価」している。科学的な実験から人間の労働代替へと移行する前に、困難な技術的課題に直面していると述べているのだ(『ウォール・ストリート・ジャーナル』(25年12月30日付)。この自己評価こそ、製造現場の苦悩を表わしている。この苦悩の原因は、どこにあるのか。メディアは、そこを素通りしている。本質的問題は、人型ロボットが作業現場で自主的に判断し行動できる先端半導体がまだ、世界中で製造されていない結果である。
産業用ロボットは、「正確に同じ動きを繰り返す達人」である。一方の人型ロボットは、「環境に応じて柔軟に対応する労働者」と位置づけられる。この「柔軟な対応」こそ、先端半導体の果す役割である。
冒頭に挙げた高市首相発言は、「日本がフィジカルAIで世界に打って出る」と強調した。これは、人型ロボットが人間と協働作業できる「フィジカルAI(人工知能)」段階へ発展するという意味である。つまり、「現場AI」を日本企業によって実現すると世界へ宣言したのである。フィジカルとは、身体的動作を意味する。それを司る(脳)AIが、日本の国策半導体企業ラピダスによって、27年春に量産化される技術的見通しがついたのだ。これは、日本が世界へ誇る「革命的」な技術開発である。
人類が、夢見てきた労働という「苦役」の軽減は、人型ロボットによって一部でも代替可能になることは、これまでにない快挙である。産業革命以降の歴史は、機械化によって人間の労働を軽減する過程であった。それが、人間と協働する現場まで近づいてきたことは、大きなエポックである。その人型ロボットを動かす脳である現場AIが、日本企業によって生み出されようとしていることは、日本経済はもちろんのこと、世界経済へも大きな「福音」となることが間違いないであろう。
人型ロボットが登場する背景には、労働力不足という動かしがたい事実がある。日本は、生産年齢人口(15~64歳)比率が、58.78%(2024年)と先進工業国で最低である。少子高齢化の進行によって今後、さらに低下する宿命にある。この事態を解決するには、現場AIを開発する以外に道がないのだ。ラピダスが、現場AI開発で見通しを付けたことにより、日本経済は大きな翼を得た。高市首相が、年頭記者会見で発言した裏には、深い安堵感があったのであろう。
ASIMOから現場AI
日本は、かつて人型ロボットで世界をリードしていた。ホンダが2000年に、「ASIMO(アシモ)」を発表して話題となった。その後、開発が進まず22年に表舞台から姿を消した。人型ロボットが、歩いたり走ったりダンスをしたりするパフォーマンスだけなら、日本が20年前に実現していたことだ。ASIMOがなぜ消えたか。詳しい事情は不明だが、半導体の進歩がみられなかったのであろう。
「踊ったり、お盆を運ぶ」程度の人的ロボットは、以下のような古いタイプの半導体を組み合わせている。つまり、成熟半導体で十分にその役割を果すことが分る。(省略)以上のように、「オールド半導体」で動く人型ロボットは本来、メディアの報道するほど派手な存在でないのだ。米国ロボット企業は、新たな機能を付加する上で苦悩している。これこそが、真実である。ラピダスが開発している現場AIは、2ナノである。このレベルの最先端半導体が登場しなければ、人的ロボットが現場で「見たり・聞いたり・判断して」瞬時に行動することができないとされている。(つづく)
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