『しまむら』店員を土下座させて逮捕 クレーマー主婦をブタ箱に入れた「強要罪」はこんなに怖い
2013.10.23- #雑誌
週刊現代
講談社
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その主婦は、写真とともに、こうツイッターに書きこんだ。
〈従業員の商品管理の悪さの為に客に損害を与えたとして謝罪するしまむら苗穂店の店長代理○○(デブ)と平社員○○。土下座させるお客様凄い凄過ぎる怖い怖過ぎる〉
北海道札幌市東区。9月3日の夕方、衣料品チェーン「しまむら」苗穂店内で、子連れの主婦(43歳)が大声を出した。店で購入したタオルケットに、穴が空いていたというのだ。
「店に来るのに使った交通費を返せ!」「カネ!」
幼い娘の目の前で店員に詰め寄った主婦は、対応した店員2人に土下座させて写真を撮ったうえ、自宅まで謝罪に来るよう言った。
主婦が「土下座写真」をインターネット上で公開した直後、匿名掲示板では「店員を土下座させたクレーマーがいる」という噂が広がった。「炎上」の格好の標的となった彼女は、瞬く間に氏名や住所を暴かれ、自宅近くで娘と一緒の写真まで撮られてしまう。
と、ここまでは近年多発しているネット炎上事件とまったく同じ展開だった。
-AD-だが、事件は意外な方向へ進む。10月7日、店員からの被害届を受けて、なんとこの主婦が警察に逮捕されたのだ。
ネット上には「こんなモンスタークレーマーには同情の余地もない」「ざまあみろ」などという声が溢れた。一方で、「強要罪」という聞きなれない罪状に引っかかった人もいる。泉岳寺前法律事務所の落合洋司弁護士もそのひとりだ。
「強要罪とは、暴行や脅迫によって『義務のないことを行わせる』、または『権利の行使を妨害する』こと。よくあるのは、暴力団関係者が相手を脅してカネを巻き上げようとするケースなどです。
しかし今回のように、客が店員を土下座させ、強要罪に問われたというケースは聞いたことがありません」
容疑者と同じアパートに住む男性は、逮捕を伝えると驚きつつこう話した。
「あの人はいま夫と別居して娘と2人暮らしですが、急に怒り出して娘を泣かせたり、部屋の外に出したり激しいところはありましたよ。半年くらい前には、子どもを叱りつける声があんまり大きいから、パトカーが駆け付けたこともあった。でも、まさか逮捕されるとはね」
店員を土下座させ、さらにそれを写真に撮って不特定多数に向け公開するという行為は明らかにやりすぎだ。ただ、これが果たして逮捕までされるようなことだったのかと考えると、違和感がある。前出の落合弁護士も首を傾げる。
「普段、『苦情を言ってきた客に土下座させられた』と訴えても、警察は相手にしないでしょう。民事トラブルということになるはずです。やはり、ネットで土下座写真が公開され、話題になっているから逮捕したのではないか、と思ってしまいます」
この推測は、外れていないようだ。ある北海道警OBは、逮捕の理由を「簡単に言えば、功名心ですよ」と断言する。
「いま社会問題になっているネット炎上に、警察として何とか食い込みたい。ネットに絡む犯罪を摘発し、『道警は先進的な課題に取り組んでいる』と警察内の評価を高めたいという考えがあるのでしょう。
さらに言えば、道警は先日、ひき逃げ事件で防犯カメラに映った女性を拙速な捜査の末逮捕し、起訴できなかったという失敗をしています。その失点も意識していたはずです。
-AD-逮捕権を運用するための判断基準の他に、こんな『自己都合』で、警察は簡単に人を逮捕するんです」
「燃料」は投下されたそんな恣意的な捜査が許されるのか、という疑問に加え、さらに浮かぶのが、「今回の逮捕は本当に強要罪の要件を満たしているのか」という根本的な疑念だ。企業のクレーム対応に詳しい、表参道法律事務所の横山雅文弁護士が指摘する。
「強要罪の成立要件でいえば、単純に『土下座をさせたから強要罪』とは言えないはずです。店員とのやりとりの中で明白な脅迫があった場合は強要罪だと言い切れるでしょうが、その点が微妙だと思います」
刑法によれば、強要罪が成立するには、相手に〈生命、身体、自由、名誉もしくは財産に対し害を加える旨を告知〉することが必要だという。つまり、たとえば「土下座しないと殴るぞ」と言って土下座させたならば、これはまぎれもなく強要罪ということだ。
しかし今回のケースでは、容疑者が「土下座しろ」「交通費を負担しろ」「家まで来て謝罪しろ」の3つを店員に要求したことまでは明らかになっているが、肝心の「しなければ○○するぞ」の部分がはっきりしない。
「容疑者が『害を加える旨』を言ったかどうかがポイントです。店が通常のクレーム処理で土下座をすることはないでしょうから、表に出ていない部分で、脅迫めいたことを言ったり、わめき散らすなどの行動があって、店員は土下座せざるを得なくなったのかもしれません。そうでなければ、逮捕は行きすぎということになる」(広尾総合法律事務所・桐生貴央弁護士)
今回は、土下座させられた店員から警察に被害届が出ているが、そこにもカラクリがある。
「警察は、ネット上でこの主婦が話題になっていることに後から気づいて着手したわけですが、逮捕に持ち込むには弱いのではないかと途中で気づいた。そこで、逮捕のための免罪符として店側に被害届を出させたのです。もっとも、強要罪は親告罪ではないため、逮捕のために被害届は必ずしも必要ではないのですが」(捜査関係者)
逮捕劇は、ネット上では称賛を受けている。そればかりか、いまでも容疑者やその子どもの写真、個人情報が「もっとやれ」とばかりに暴かれ、バラ撒かれ続けている。逮捕のニュースが炎上のさらなる「燃料」になったのだ。
警察が今回の事件に味を占めると、ネットで炎上した人物を逮捕するという安易な考え方が定着するかもしれない。しかも、いまや「私設捜査機関」と化しているネットの住人たちに任せておけば、警察は裏取り捜査の手間も省ける。被害者へのアクセスも簡単なら、加害者の顔も名前も住所も、ネットですぐに公開されるからだ。
-AD-前出の北海道警OBが嘆く。
「『ネット社会に対する警告』などと称して、ネットで話題になっている人物を詰めの甘いままに逮捕して喜ぶというのは、警察の仕事としてあまりに幼稚であり、お粗末です。もっと他に取り組むべき事件があるのではないかと言いたい」
今後、警察が「強要罪」を過剰に振りかざすようなことになれば、それがいちばん怖い。
「週刊現代」2013年10月26日号より
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