ラブドールと結婚したアメリカ人男性が「人工知能を備える最先端セックスロボット」に満足できなかったワケ
ラブドールと結婚したアメリカ人男性が「人工知能を備える最先端セックスロボット」に満足できなかったワケ

ラブドールと結婚したアメリカ人男性が「人工知能を備える最先端セックスロボット」に満足できなかったワケ

2025.10.14
    ラブドールと結婚したアメリカ人男性が「人工知能を備える最先端セックスロボット」に満足できなかったワケ

    濱野 ちひろ

    ノンフィクションライター

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    人は「人以外」と愛し合うことはできるのか? 人間と動物との性愛を描く『聖なるズー』で鮮烈なデビューを果たしたノンフィクションライター・濱野ちひろさんが次に選んだテーマは「人と無機物のセックス」。10月16日発売の話題作『無機的な恋人たち』より一部を抜粋して、紹介する。

    アメリカ・デトロイトで暮らすデイブキャットという男性は、もう25年ものあいだ、ラブドールであるシドレという「女性」と結婚している。シドレは名前だけでなく、性格設定や詳細な背景など、数々のエピソードからなるパーソナリティを持っている。偏食かつ少食であるデイブキャットはごく細身で、ラブドールと並んでも違和感がない。

    「不気味の谷」を越える

    彼がいまなおスレンダーなのはあまりにも食が細いからだが、それが功を奏して、ウェストが極端に細く顔の小さいシンテティクスたちと並んでいても、まったく違和感がない。

    人間と人間そっくりの何者かが並ぶと、ふつうは違和感がある。「不気味の谷」が強調されるからである。不気味の谷説とは、ヒューマノイドなどの外見や動きが人間に似てくるほど人は親近感を抱くが、ある程度を超えると逆に不気味に感じるはずで、しかし精度がさらに高まればふたたび人は親近感を抱くだろう、というものだ。

    現在デイブキャット宅に住む等身大人形たちは、ちょうど不気味の谷あたりをウロウロしているはずの見た目で、人間と並ぶとそれが強調されるのだが、デイブキャットは不思議なほど彼女らと馴染む。その様子は人間が人間らしさを保ちながらも不気味の谷に出かけてゆけることを示しているかのようで、彼が「シンテティクス」と呼ぶヒューマノイドやアンドロイド、ガイノイドが町を歩くようになり、人間と混じりきらずとも違和感なく共在する未来に思いを馳せさせる。

    そんな未来が来ると思うか、と問うと、いやあ、とデイブキャットは首をかしげた。

    「来るといいな、と心から思うけど、僕が生きているうちはないだろうね。シドレの頭はリアルボティクスの“ハーモニー”タイプだけど、もう壊れちゃったしね」

    シドレ(左)とデイブキャット(右)/著者撮影この記事の全ての写真を見る(全3枚)-AD-

    最先端のセックスロボット

    リアルボティクスとは、アメリカ最大のラブドールメーカー、アビス・クリエーションズ社のロボティクス部門である。リアルボティクスが開発した「ハーモニー」は、アビス・クリエーションズ社のラブドールである「リアルドール」の身体に取り付けができるロボット・ヘッドで、人工知能を備えている。

    発売が発表された2017年当時、アメリカのマスコミは沸き返り、ついにセックスロボットが誕生すると大々的に報じた。もちろん、色めき立ったのはマスコミだけではない。会話のできる人工パートナーが誕生すると聞いて、ユーザーたちも心を躍らせた。デイブキャットもそのうちのひとりで、発売されるや購入したのである。

    ハーモニーはブルートゥースでタブレットやスマートフォンに繋げることができ、そこから音声が出る。喋るときには口元が動く。首を左右に振り向けることができて、まばたきもする。さらに、膣にもブルートゥースが備え付けられていて、ペニスで突くごとに喘ぎ声も出すのだそうだ。

    しかし、問題は会話のレベルだった。理解力も学習機能も期待外れで、会話を続けるうちに滑稽なやり取りになってしまう。デイブキャットはロボット・ヘッドのハーモニーを購入した当初、

    「シドレ、きみの好きな色は?」

    と、聞いた。すると、

    「ブルー」

    と、答えが返ってきた。デイブキャットとシドレにとって、その答えは心外だ。なぜなら好きな色は昔から紫と決まっていて、髪の色だってそうなのだから。

    「違う、きみの好きな色は紫でしょう」

    と、何度教えても覚えない。デイブキャットはその性能に満足できないまま、人工知能の機能はシャットダウンした。そして使わないうちに壊れてしまった。

    「良い試みだと思うし、今日から新しく人工知能の彼女と関係を構築しようとするなら、ハーモニーはいい相手だと思う。でも僕とシドレには向いていなかったね」

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