なぜiPhoneは指紋認証が復活しない? 「これからのロック解除はどうなるのか」考えてみた
なぜiPhoneは指紋認証が復活しない? 「これからのロック解除はどうなるのか」考えてみた- 2025.07.31 22:00
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- 小野寺しんいち
iPhoneから指紋認証が姿を消して早8年(SEを除く)。
長らくiPhoneユーザーだった筆者が、指紋認証と顔認証の両方を備えたPixelスマホを使い始めて感じたのは、その利便性の高さでした。
当たり前ですが、指紋認証の何が楽かって、スマホが机の上に置いてあっても、ポケットの中に入っていても、画面に顔を向けなくてもロックを解除できるところ。スマホに触ればすぐに起動できるということです。
ここで考えるのは、スマホの認証って、顔認証と指紋認証をダブルで搭載している機器がほんとうに最強なのか?ということ。
どうやら、そういうわけでもないみたい。調べてみると、なんでiPhoneには指紋認証がないのか、そして生体認証の未来について、見えてきました。
iPhoneに生体認証がない時代もあった
2000年代にスマホに導入されるようになった指紋認証。2013年のiPhone 5sの登場で一気に普及していきました。
それまでの認証システムは、暗証番号やパターンロック。
iPhoneのホームボタンが、ただのボタンだった時代が懐かしいですよね。
Image: Appleiphone 5sそこからは、顔認証搭載のスマホが普及します。Galaxy Nexusといった2Dの顔認証機能を搭載したスマホもありましたが、iPhone Xが3Dによる本格的な顔認証を導入し、市場に投入されました。
そこからも生体認証技術の進化は止まらず、現在では目の虹彩の模様を使う虹彩認証や、人の声を使う声紋認証、手指の静脈パターンを使う静脈認証など、デバイスや目的に応じて発展しています。
どの認証方式が、ベストなの?
Image: Generated with ChatGPTiPhoneでもAndroidスマホでも、顔認証は今やごく普通に搭載されています。でも、実はiPhoneとAndoroidでは異なるテクノロジーを使って顔認証を行なっています。
iPhoneに搭載されてる顔認証、「Face ID」は赤外線と深度マッピングを使った3Dの認証方式です。一方Androidスマホでは、一部のハイエンド機を除き、2D画像による認証がまだまだ主流。
私の使っているPixel 9 Proの顔認証も以前より性能は上がっているものの、3Dではありません。
3D認証の方がセキュリティレベルが高く、赤外線を使うため暗所でも使えるというメリットもあります。単純に顔認証といっても、種類があるんですね。
顔認証をと指紋認証を比べるとどうでしょう。偽装のしづらさ、誤認率の低さから、3Dの顔認証の方が有用だとされています。
Appleは、公式サポート文書の中で、以下のように述べています。
無作為に選ばれた他人がユーザのiPhone、iPad、またはApple Vision Proのロックを解除できる確率は、Optic IDまたはFace IDの場合は100万分の1未満です(マスク着用時Face IDがオンになっている場合を含む)。ユーザのiPhone、iPad、MacがTouch IDを搭載している場合やTouch ID搭載Magic Keyboardとペアリングされている場合は、確率は5万分の1未満です。
Apple
単純な数字の比較だけでは断定できないでしょうが、Face IDの方がTouch ID(指紋認証)よりも20倍ほどセキュリティが高いと読み取れます。
認証方式の違いからわかる、AppleとGoogleの思想の違い
セキュリティを重視するiPhoneと、利便性を追求するPixelなどのAndroidスマホ(顔認証と指紋認証のダブル搭載が主流)。ここには、設計元の思想的な違いがありそうです。
Image: Appleユーザーのプライバシーの保護を重要事項に掲げてきたAppleにとって、セキュリティがより高い技術を採用するのは当然のことでしょう。Face IDに劣るセキュリティ性能の指紋認証を導入、併用することは、彼らのロジックに合いません。
また、Appleの製品開発の理念において、テクノロジーを“感じさせない”ことを理想としていることもよく知られています。
過去にAppleのCEO、ティム・クック氏は、このように発言しています。
We believe that technology should be in the background, not the foreground, and that technology should empower people to do things and help them do things they couldn’t do otherwise.
筆者和訳: 私たちは、テクノロジーは前面ではなく背景にあるべきだと信じています。テクノロジーは、人々が何かを成し遂げたり、それまでできなかったことを可能にしたりする手助けをすべきものです。
ティム・クック氏
たとえば、iPhoneでロックを解除すると、Apple Watchのロックも自動で解除されます。Apple Vision Proは虹彩を読み取るOptic IDにより、装着したときにはロックが解除できるような自然なものです。
こうした例からもわかる通り、Appleのプロダクト体験の根底には、なるべく違和感なくテクノロジーを使える、という理念が流れています。
Appleが目指す世界は、デバイスの存在すら忘れるほどシームレスに人と人の生活に、Apple製品が溶け込んでいるような状態ではないでしょうか。
Image: GoogleGoogle Pixel 9一方PixelやAndroid OSを手がけるGoogleのプロダクトは、ユーザーに多様な選択肢を与えます。
顔でも指紋でも、起動方法を選べる柔軟性。そして、セキュリティを担保しつつも、同時に利便性も追求する姿勢です。
オープンソースであるAndroid OSがその方向性を示すように、Andriodスマホには、Googleならではの"選択肢の哲学"が流れていると感じます。
どちらが良いか悪いかではなく、両者共に異なるユーザー体験をもたらそうとしているところに、個性があります。
スマホ選びは、「安全性」と「利便性」のトレードオフ
ここで、「施錠」の目的を今一度考えてみましょう。施錠とは、本質的には「本人であることを証明して、他者の侵入を防ぎ貴重な資源を守ること」です。
その先祖は、6000年前のメソポタミアの木製のかんぬき錠まで遡れると言われています。それほど人類はずーっと他者に自分の大切なものを奪われるリスクと戦い続けてきたんですね。
スマートフォンには、お財布から、企業秘密の入ったドキュメント、誰とどんなやり取りをしたかの履歴、ありとあらゆる個人情報まで、たくさんの"大切なもの"が詰まっています。現代人にとっては、何よりもセキュリティを高めなくてはならない存在かもしれません。
だからこそ、セキュリティレベルの高い生体認証システムを有しているかどうかは、スマホ選びの重要な基準と言えるでしょう。
一方で、鍵からパスワード、そして生体認証への施錠システムの進化からもわかる通り、ロックを解除することの利便性が追求されてきたという側面もあります。鍵を取り出して開ける、よりも、顔を向けるだけで解除、できる方がはるかに楽ですからね。
つまり、セキュリティは、「安全性」と「利便性」という一見両立が難しそうな側面をどちらも進化させてきたということです。
iPhoneとPixelを中心とするAndriodスマホの生体認証を比べても、両側面のせめぎ合いを感じます。ただ「便利だから指紋認証と顔認証のダブル搭載がいい!」ではなく、使用者自身が安全性と利便性のどちらに重きを置きたいかを考えることが、本質的な選び方になるのではないでしょうか。
「あなたがここにいること」が認証になる時代へ
では、今後のスマートフォン、ひいては今後に誕生するプロダクトにおいて、生体認証はどう進化していくのでしょう。
私は、安全性と利便性の二項対立が、技術革新によって解決されていくだろうと考えています。
前述の通り、すでにさまざまな生体認証技術が実用化されてきています。現在では、脳波を用いたユーザー認証の研究なども行われています。
Image: XREALProject AuraGoogleは、先日行われたGoogle I/O 2025にて、「Project Aura」 と呼ばれるスマートグラスのデモを発表しました。リアルタイムでの翻訳やメッセージのやり取りなどをこなせるこのデバイスは、スマートフォンよりもはるかに日常の生活に溶け込むプロダクトです。このようなデバイスでは、認証ステップはより嫌われるはず。Vision Proが、装着動作の中で自然にロックを解除するのと同様です。
さらに、AIが可能にするロボティクス技術の進化も、認証の変化に影響を与えるかもしれません。Nvidiaがヒューマノイドロボットの開発を加速させる最新テクノロジーを発表したことも記憶に新しいですが、これまで主にデジタル空間に存在していたAIが、いよいよ物理世界に拡張していく時代へと向かっていくことが予感されます。
これまでAIが扱っていたのはデジタル上に存在するデータでした。しかしこれからは物理世界に存在するAIを搭載したロボットが、物理事象をデータとして収集していくようになっていきます。
Image: Generated with ChatGPT仮の想像ですが、もしR2-D2のようなロボットが登場したとします。スマホ同様かそれ以上に、あなたの個人情報を把握しています。物理的に存在するそれは、所有者以外とのコミュニケーションもできるかもしれません。
そんなときに、どうやって接触している相手が、所有者なのか外部者なのか、リアルタイムに判断するのでしょうか。そのような存在に対していちいち指紋認証などをするのは手間ですし、かといって重要な情報が外部漏洩するリスクは防がれなければなりません。ここで必要になるのは、セキュリティレベルが高く、同時に利便性に優れる認証システムです。
その場にいる人たちの脳波を読み取るのか、あるいは、顔認証や声紋認証など複数の方式を同時に走らせるのか、その方法はわかりませんが、アウトプットする情報の粒度を状況に応じて変えられる、セキュリティシステムとプログラムが必要になるはずです。まるで、あなたが存在していること自体が、認証になるようなシステムです。
施錠システムは、持っているものだった鍵から、知っていることであるパスワードに、そして、あなたがそこにいることが問われる生体認証へと進化してきました。
これからはそれがさらに発展して、ユーザーが意識しなくても、デバイスが常時その人を「理解」してくれる時代へ向かっていくかもしれません。
そしていつか、私たちが何も意識しなくても、「あなたがここにいる」ことそのものが、最も強固なパスワードになる日が来るのかもしれません。
Source: Apple (1, 2, 3, 4), Google, CNBC, XREAL