宮部みゆきの「淋しい狩人」を視聴しました(ネタバレと感想)
金曜プレステージで放送された宮部みゆきさん原作の「淋しい狩人」を視聴しました。これはなかなか面白かったです。現代社会が抱える深い闇に鋭く切り込みながらも、それを高みから一刀両断にするのではなく、同じ闇の中でともに目を凝らしながら真摯にその解決法を探るような、そんな温かい姿勢が感じられたのがとても好ましく思えた作品でした。以下、簡単なあらすじとネタバレです。
ある雨の夜、一見猟奇的とも思える殺人事件が起きました。被害者の女性は殺される前、その犯人がスタンガンを落とした姿を目撃しています。近くには「連続通り魔強盗事件」のポスターが貼ってあり、そこには、犯人がスタンガンを使用している旨が説明してありました。
目の前には交番があり、駆け込もうと思えばすぐにも駆け込めるのに、女性はそれを見なかったことにして通り過ぎようとしました。が、それこそが犯人の思う壺だったのです。
「将来起こり得る犯罪を防げたかもしれなかった。不審者を見かけたのに通報しなかったのは何故だ?」
「だってまさか自分が狙われるなんて思ってないもん。みんなそう(関わりたくないから逃げるのが当たり前)でしょう?」
人は誰もが孤独であり他人を慕うものなのに、なぜ他人とつながっていない「寂しさ」が分からないのか。思いがつながっていないから、信じないから寂しいのに。
犯人は女性の胸を一突きし、その掌に「38」という数字を刻みました。
これは(ドラマの中で)実際に起きた殺人事件だったのですが、どうやらこれはある小説をそっくりそのまま真似て行われた犯罪らしいことが判明します。古本屋の店主=岩永幸吉(北大路欣也)のもとに、父であり小説家の安達和郎の蔵書を引き取ってもらったらしい明子(加藤あい)が、岩永にこれを明かしたのです。
この模倣犯が真似ているのは和郎が失踪前に書いた「淋しい狩人」という小説らしいのですが、これが未完のまま和郎は山で遭難し、遺体も見つからぬまま10年が過ぎ、失踪宣告を出すことになったのだそうです。そしてこの小説では5人の人間が殺されています。
安達家に送られてきた手紙には、和郎が小説に込めようとしたメッセージを理解した自分こそがその遺志を継いで小説を完成してみせると書いてありました。その上犯人はこれをマスコミにも公表し、小説に書かれた犯行を実行することでこの世の中を改革して見せると豪語したのです。
ここで使われた38という数字は、実際にアメリカで起きた事件からの引用でした。強姦に襲われた女性が助けを求めたのに、誰一人この声に耳を傾けなかったため、女性=キティ・ジェノヴィーズは無残にも殺されてしまった。その際これを傍観していた人間が38人もいたという、これは結構有名な事件です。
私は君たちを試しているという犯人の声明通り、2人目の被害者も、自殺を考えているらしい男(これが犯人)に気づきながら素通りした男性=傍観者でした。
犯人からの宣戦布告とも取れるこのメッセージに多くの人間がおののきます。雨の日に困っている人を助けなければ殺されてしまう!
これがすなわち 「雨の日以外であれば誰が助けを求めていようが大丈夫」 という結論を導き出してしまうという大衆も実に短絡的なのですが、犯人はこんな「偽善」も決して見逃しません。雨の日以外にその人間の動向を試し~腹痛を訴える自分を無視したくせに、再び雨の日に遭遇した際には、安否を気遣う声をかけてきたと、すかさず拉致してしまうのです。
救いを求める人間に手を差し伸べようとしない「現代の傍観者」に裁きを下そうとしているこの犯人はいったい誰なのか。
ここまでの段階で、個人的にはふたりの容疑者を思い浮かべておりました。
ひとりは、岩永の経営する田辺書店で万引きをしようとしていた子どもを注意した笠松武志という青年。武志はこの時、万引きが行われていることを知りながら黙って見ていた周りの人間の「罪」についても厳しく言及しておりました。岩永はこの武志の振る舞いに感心していましたが、正義感が高じてこのような犯行に至ってしまった可能性を考えたからです。
そしてもうひとりは、死亡したと思われる安達和郎が実は生きていたと判明したことから、10年前に完成できなかった小説を、その内容を現実社会に知らしめることで、なんらかの結論を得ようとしたのかという疑惑も持ち上がりました。
以下、ネタバレです。
が、この後すぐに岩永と明子は安達和郎の居場所を突き止め、彼が岩永の勧めに応じて犯人を説得する会見を開いたことで、安達が犯人だという可能性は消えてしまいます。
「正義という名の下に、自己保身のために鈍感な傍観者になってしまった人間たちを裁く犯人こそが、この世界を変えるのだと信じていた。が、それは自分もまた『正義』という言葉にたかり続けているだけの姑息な自己保身の塊にしか過ぎないということに気づいてしまった」
この会見の模様を見ていた武志は、いかにも良心の呵責に耐えかねた様子で、友だちの父親でもある警官=野呂の下へやってきます。この時点でおばさんがピンと来たのは、この野呂警官本人でした。おかやまはじめさんが演じていらしたというのもその理由の一つです。
そして次には、武志が罪の重さに耐えかねて自殺を図ったという報告が、この野呂巡査によってもたらされます。ここはもう、野呂が犯人に違いないという確信を抱いたおばさんでしたが、でも時間がそれを否定していました。ドラマ終了までに、まだ30分近く残されているのです。テレビドラマ好きは、こういう「邪念」が入っていけませんよね。
以下本当のネタバレです。
なんと犯人は、野呂巡査の息子の優人だったのです。彼は最初の方で、万引き犯を罵る武志をなだめる役割として登場しています。
これは、岩永が、亡き息子の親友だった刑事の樺野(田辺誠一)にこう助言したのが大きなヒントになりました。犯人は、現代的な傍観者を罰しようとしているのではないか。
たとえどんな悲惨な事故が目の前で起ころうと、平気な顔でそれをSNS上に垂れ流し、ひたすら「傍観」している人間が、その被害者から見れば「加害者」に見えることも大いにあり得るということです。時と場合によっては、そちらの方がより腹立たしく思えることさえあるはずです。
しかもそんな傍観者=殺された被害者たちは、日々ネットで個人情報を流していたことから、たとえ素人であっても個人を特定することは可能である
その推理から犯人が使っていたネットカフェが絞り込まれました。でもここ今一つよく分からんかったんですけど、要するに犯人はSNS上でも被害者に接触してきていたということなのでしょうかね。
武志は、親友の優人が犯人だと確信し、父親の野呂巡査に相談しに行ったところを、息子を信じたい巡査と押し問答になり、その最中に非常階段から足を滑らせて転落したのだそうです。野呂はこれを「覚悟の自殺」と報告はしましたが、一方では武志の命を救おうと必死に蘇生を試みたそうです。そして武志はそのおかげで一命をとりとめることができました。
最後には、そんな父親まで、奪った拳銃で傷つけたらしい優人をこのような犯行に駆り立てたのはいったい何だったのか。
優人は3年前に母を殺されていたのだそうです。バスの車内で携帯電話をかけていた男性に注意したところ、その男が開き直って母親を突き飛ばしたため、死に至ってしまったのだとか。
その時も、誰一人母を助けようとしてくれる人はいなかったばかりか、自分もまた、男に注意をした母親についていくこともせず、ただ黙って見ているしかなかったのです。
優人はそんな「無関心が当たり前の世の中」を変えようとしたのです。が、今では父から奪った拳銃で自分の命をも断とうとしています。
優人はきっとバスの中にいるに違いないと察してやってきた岩永はこう言って優人に近づきました。君は革命を起こすと言ったが、お母さんはそんなことを望んでいるのだろうか?君は、被害者の状況を思いやれない、想像力の欠如した人間たちは制裁を受けるべきだと主張したが、その罰を受けた人間たちの家族には思いを馳せなかったのか?
君は、母を失った寂しさと悲しさを埋めるために、殺人を繰り返しているのではないか?
そういう岩永もまた一人息子の雅志を失っています。雅志は当時勤めていた会社の不正を見過ごすことができずに内部告発をしたそうなのですが、それによって会社での居場所が無くなり、それを苦に自殺したと見られているのです。
が、岩永は決してこれを信じませんでした。あの子は決して家族を置いてひとり自殺するような人間じゃない。あれは事故だったんだ。
息子を失った悲しさや淋しさは決して忘れられないが、自分はその感情とともに生きていこうと思っている。自分には、息子が残した家族に美味しいご飯を作ってやることぐらいしかできないが、そうやって生きていけば、必ずまたいつかどこかで希望を見出すことができる。人はそのために生かされているのだから。
俺は人間を信じたい。絶望するなんてとんでもないよ
こともあろうに父親までが、自分の親友に息子の罪を擦り付けたと思い込んでいたらしい優人が、実際にはそうではなかったことを知り、また、自分もまた「絶望」を垣間見たに違いない岩永が、そこに引き込まれることなく踏みとどまっていることを知って、ようやく自殺を思いとどまってくれたのは何よりでした。
そしてこの岩永の言葉が真実だったことも明かされます。
明子はある時突然失明したそうなのですが、ある人の言動がきっかけで絶望の淵から這い上がり、前向きに生きていこうと決意したそうなのですけれど、それがどうやら岩永の息子の雅志だったらしいのです。
いきなり光を奪われた明子はこれから自分が送るであろう人生に絶望し、病院の屋上から飛び降り自殺を図ろうとまで考えたそうなのですが、その時背後から自分を見守る視線を感じ、いつまでもその気配が消えないことで、自分が守られていると感じたそうです。そしてこの時また、人間には視力に頼らずとも物事を感じ取れる力があることも知ったのだとか。
近くにいたのならどうして自分を止めようとしなかったのかという明子の問いに、自分の力で踏みとどまれるなら、余計なことはしないほうがいいと思ったと語ったその人は、 「困ったことがあったら深川不動の神様に手を合わせればいい」 と言ってくれたそうです。それこそが、岩永の家の習慣であり、明子はそれが岩永の息子であると確信して、これを岩永の家族に伝えてくれたのです。死にたくなるようなことがあるけど、家族のことを思うと、これからもきっと大丈夫だと思える~その人はそうも言っていたそうです。それは岩永(父)が常に息子を信じて「見守ってくれている」とこちらも信じていたから出た言葉です。
恥を覚悟で姿を現し、犯人を説得してくれた安達和郎はもう二度と家族の元に戻ることは無いようでしたが、これでようやく明子の母も一歩前に踏み出せると笑顔を浮かべておりました。人間は時を味方にして、悲しい過去をも糧にして成長することができる、と改めて教えてもらった気がしました。なかなか素敵な作品にじんわり心が温まりました。
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