「グリッド分断」の不穏―PUメーカー2社に疑惑、F1新時代前夜に浮上した“圧縮比グレーゾーン”を突くゲイン
2026年から始まる新たな時代のF1を告げるオーストラリアGPを77日後に控え、水面下では次世代パワーユニット(PU)を巡る深刻な対立が表面化しているようだ。争点となっているのは、ICE(内燃エンジン)の圧縮比とその測定方法だ。
関係者の証言によれば、少なくとも2社のPUメーカーが、規則のグレーゾーンを突いた設計によって性能面で優位に立っている可能性があり、他メーカーの間で警戒感が強まっているという。
現時点で国際自動車連盟(FIA)や各陣営から具体的な名指しはない。だが、複数の欧州専門メディアの報道では、メルセデスとレッドブル・パワートレインズ(RBPT)に疑惑の目が向けられているとされる。
メルセデスは自社に加え、マクラーレン、アルピーヌ、ウイリアムズに供給を行う。RBPTもレッドブルとレーシング・ブルズにPUを提供する。計6チーム――つまり、この問題はグリッドを真っ二つにする闘争劇へと発展する可能性があるということだ。
Courtesy Of Red Bull Racing
米国ニューヨークで行われたレッドブル・パワートレインズとフォードとの提携発表、2023年2月3日
禁止の「18.0」を再現する“熱膨張トリック”
2026年の技術レギュレーション(C5.4.3)では、ICE(内燃エンジン)の圧縮比上限が従来の「18.0」から「16.0」へと引き下げられた。だが、疑惑の対象となっているメーカーは、測定プロセスの”抜け穴”を突いているとされる。
鍵となるのは、FIAの車検において圧縮比が常温かつ静止状態で測定される点だ。
情報筋によると、該当メーカーは「熱膨張」を利用する複雑な内部構造を意図的に採用しているという。検査時は規定の16.0に収まるが、エンジンが高温になると部品が膨張し、実走行時には禁止された18.0に近い圧縮比を実現している可能性があるとされる。
なぜ「圧縮比」で揉めているのか?
圧縮比とは、端的に言えば点火前にガソリンと空気をどれだけ圧縮できるかを示す数値だ。数値が高いほど燃焼効率が向上し、出力面で有利になる。
これは弓矢に例えると分かりやすい。「弓を通常の強さで引く状態」を圧縮比が低い場合とすると、「弓を限界ギリギリまで引く状態」が圧縮比が高い場合だ。後者の方が矢が勢いよく飛ぶように、エンジンも点火直前に混合気を圧縮すればするほど爆発力が強くなり、パワーを引き出しやすくなる。
copyright Formula1 Data
ICE(内燃エンジン)の圧縮比および、2026年F1パワーユニットに関連する圧縮比疑惑の説明図、2025年12月21日
燃料と空気は圧縮されるほど温度と圧力が高まり、燃焼が安定する。その結果、同じ燃料量でもより多くのエネルギーを取り出せる。2026年は燃料噴射量が実質的に約25%削減される見通しで、限られた燃料からどれだけ効率的にパワーを引き出せるかが勝負となる。
ドイツの専門メディア『Motorsport-Magazin』によれば、規則のグレーゾーンを突くこの巧妙な手法によるゲインは約15馬力に相当し、ラップタイムでは最大0.3秒に及ぶと試算されている。これは無視できない影響と言えよう。
FIA対応も、開幕戦での抗議は不可避か
FIAもこの問題を把握しており、水面下で対応を進めてきた。
イギリスの専門メディア『The Race』によれば、今年10月には測定手順に「常温で実施する」との文言が明記された。さらに先週、ガイダンス文書「C042」が発行され、各メーカーに測定手順の詳細を記した書類の提出と、FIA技術部門の承認取得が義務付けられた。
一方で、FIAの広報担当者は「熱膨張が寸法に影響するのは事実だが、現行ルールでは高温条件下での測定を要求していない」と述べ、現時点では明確に”違法”とは断定できないグレーゾーンが存在していることを半ば認めている。
問題を深刻化させているのは、開幕戦までの時間が限られている点にある。
もしFIAがこのトリックを「違法」と断じた場合、該当メーカーは内部構造を再設計しなければならないが、3月8日の開幕戦までに信頼性を確保した修正を行うことは現実的ではない。
逆に合法と判断されれば、他メーカーは最大0.3秒ともされる不利を抱えたままシーズンに突入することになる。
FIAは将来的な測定手順変更の可能性に言及しているが、現状では不満を抱くメーカーが開幕オーストラリアGPで正式な異議を申し立て、場外での対立が激化する展開も十分に考えられる。
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