【冥界からの魔物】シャチがマッコウクジラに襲いかかった…その恐ろしすぎる結末【書籍オンライン編集部セレクション】
生き物たちは、驚くほど人間に似ている。ネズミは水に濡れた仲間を助けるために出かけるし、アリは女王のためには自爆をいとわないし、ゾウは亡くなった家族の死を悼む。あまりよくない面でいえば、バッタは危機的な飢餓状況になると仲間に襲いかかり、動物園の器具を壊したゴリラは怒られるのが嫌で犯人は同居している猫だと示す…といったように、どこか私たちの姿をみているようだ。 ウォール・ストリート・ジャーナル、ガーディアン、サンデータイムズ、各紙で絶賛されているのが『動物のひみつ』(アシュリー・ウォード著、夏目大訳)だ。シドニー大学の「動物行動学」の教授でアフリカから南極まで世界中を旅する著者が、動物たちのさまざまな生態とその背景にある「社会性」に迫りながら、彼らの知られざる行動、自然の偉大な驚異の数々を紹介する。「オキアミからチンパンジーまで動物たちの多彩で不思議な社会から人間社会の本質を照射する。はっとする発見が随所にある」山極壽一氏(霊長類学者・人類学者)、「アリ、ミツバチ、ゴキブリ(!)から鳥、哺乳類まで、生き物の社会性が活き活きと語られてめちゃくちゃ面白い。……が、人間社会も同じだと気づいてちょっと怖くなる」橘玲氏(作家)と絶賛されている。本稿では、その内容の一部を特別に掲載する。(初出:2024年3月30日)
Photo: Adobe Stock「冥界からの魔物」
マッコウクジラという動物は、脅威への対処方法も独特である。
ごく最近まで、マッコウクジラ、特に大人のマッコウクジラは、捕食者の脅威とは基本的に無縁だと考えられていた。これだけ巨大な動物を攻撃できる捕食動物などいないだろうと思われていたのだが、実は、それができる動物もいるとわかってきた。
シャチは高い知能を持つハンターであると同時に、身体もマッコウクジラを襲うのに十分なほど大きい。英語でシャチを意味する“killer whale”という名前は、スペイン語の“asesina ballena”に由来するという説もある。
“クジラ殺し”と呼ばれた
これは直訳すると“whale killer(クジラ殺し)”になる。スペインの漁師や捕鯨船員たちが、自分より大きなクジラを襲うシャチを見て、その話を人に聞かせていたことからこの名前がついたとも言われている。
当然、シャチという動物にも敬意を持つべきであり、その点からすると、「クジラ殺し」という名前はどうなのか、と思う人も増えたのだろう。
最近では、英語でシャチのことを“orca(オルカ)”と呼ぶ人も多くなった。これは、学名の“Orcinus orca”を縮めたものなのだが、実は、この学名自体、あまり良い名前とは言えない。ラテン語で「冥界からの魔物」という意味だからだ。
名前の話はそのくらいにするが、ともかく、シャチが地球上でも知的で創造力に富み、同時に冷酷なハンターであるのは事実である。シャチがマッコウクジラを襲った話は数多くあるが、アメリカ海洋漁業局のロバート・ピットマンらの話ほど恐ろしく、印象的な話も少ないだろう。
1997年に、カリフォルニア沿岸で、35頭のシャチの集団が9頭のマッコウクジラの集団に襲いかかった時のことだ。攻撃は早朝に始まり、数時間続いた。その一部始終を、アメリカの調査船に乗った科学者たちが見ていたのだ。
シャチの攻撃を受けたマッコウクジラたちは集まり、「マーガレット・フォーメーション」と呼ばれる陣形を組んだ。マーガレットの花に似た形になることからついた名前だ。
この陣形では、マッコウクジラたちがそれぞれに自分の頭を花の中心に向け、身体は花びらのように外に向けることになる。子どもなど小さく弱い個体は花の中心に置いて、安全度を高める。
ゴンドウクジラなどクジラ目のもっと小さな動物たちも同様の方法で身を守ろうとすることが知られている。頭を内側に向けることで、自分たちの最も強力な武器である尾びれを攻撃相手に向けることできる。
じわじわとクジラを追い詰める
ジャコウウシなど、陸上の動物も同様の陣形を作ることがあるし、人間も昔の歩兵たちがやはり同じような陣形で身を守ろうとしていたことがある。
しかし、この陣形が破られてしまうこともある。相手の方が圧倒的に数が多い場合などには、とても対抗できない。35頭のシャチは、クジラの数を少しずつ減らしていく、という戦略で慎重に攻撃を進めていった。
そうすれば、自分たちが逆に攻撃されて負傷する危険性を最小限に抑えることができる。シャチは交代でクジラを攻撃しては退却することを繰り返していた、とピットマンは証言している。攻撃は成功しているようだった。
シャチがクジラたちの中で動き回る度、クジラのものであろう新鮮な血が流れたからだ。また、シャチが攻撃したあとには、クジラから流れ出たと思われる脂も溜まっていた。
凄惨な最期
海に大量の血が流れると、シャチの攻撃は激しさを増した。
すると、マッコウクジラはさらに深刻な傷を負うことになる。ピットマンによれば、皮膚やその下の脂肪層が引き裂かれ、大きな破片が散らばっているクジラや、腸がむき出しになっているクジラもいたようだ。
マッコウクジラたちにとっては悲しいことだが、終わりの時が近づいているのは明らかだった。
攻撃を始めてから4時間ほど経った午前11時頃、ついにシャチは、マッコウクジラの陣形を崩すことに成功した。そうなると、すでに疲れ果てたクジラたちをさらに簡単に攻撃することができる。
とどめは、巨大な雄のシャチによる攻撃だった。そのシャチは、もはや力なく海に漂うだけの無防備なマッコウクジラの脇腹に向かってとてつもない勢いで突進して行った。
獲物をしっかりと捕まえたシャチは、巨大なクジラを振り回した。
犬がネズミをくわえて振り回しているようだった。攻撃は終わった。あとは、ゆっくりと獲物を食べるだけだ。
シャチたちは、その後、1時間くらいかけてクジラを大いに味わった。殺され、食べられたクジラ以外に、この時、生き残ったクジラもいるのだが、その後、どうなったかはわからない。
逃げてその後も長く生き続けた可能性もなくはないが、負っていた傷の深さを考えると、長くは生きられなかったと考える方が自然だろう。
(本原稿は、アシュリー・ウォード著『動物のひみつ』〈夏目大訳〉を編集、抜粋したものです)
40億年を生き延びた生物が教えてくれること――訳者よりある日突然、この世界から自分以外の人間が消えたら、と想像したことが誰でも一度くらいはあるのではないだろうか。
自分以外に人がいないとまず、電気が来ない、水道もガスも出ない。電車もバスも走らない。しばらくは生きられるかもしれない。食料はスーパーなどに行けば一応、ある。日持ちのするものもなくはないし、水はある。ただ、それも時間の問題だ。そう長くは生きられないに違いない。
人間は支え合って生きている。つまり人間は「社会的な動物」である、ということだ。それは精神的な意味だけでなく、もっと切実な物理的な意味でもそうだ。群れを成し、集団で生きる動物なのである。どれほど孤独を好む人ですらそうだ。
社会的な動物と聞いて思い浮かべるのはどの動物だろうか。よく知られているのはハチやアリだろうか。動物園でサルの群れを見たことがある人もいるだろう。オオカミやライオンも群れを成すし、イワシなどの魚も水族館で大群で泳いでいるのを見ることができる。集団で生きているものを社会的な動物と呼ぶのだとすれば、そうでないものをあげる方が難しいかもしれない。
本書はアシュリー・ウォード著“The Social Lives of Animals”の全訳である。直訳すると「動物の社会生活」となるタイトル通り、オキアミやバッタからチンパンジー、ボノボに至るまで様々な社会的動物の生態を詳しく解説してくれる。
だいたい進化の順(人間から遠い順)に並べているのだと思うが、読んでいて感じるのは、結局、どの動物も共通の祖先から生まれた親戚なのだなということである。もちろん、種ごとに大きな違いはあるのだけれど、本質的な部分に違いはない。人間もそこに含まれる。著者も文中で言っている通り、人間と動物の違いは量的なものでしかなく、質的なものではないということだ。
四十億年の時を超えて生き延び、今、生きているのだから、方向はそれぞれに違えど皆、必要にして十分な進化を遂げてきたのである。その意味で等価だ。どの生物も違う歴史をたどればまったく違ったものになっただろう。いずれも偶然の産物である。
皆、生き延びて子孫を残す、という目的は共通なのに、置かれた環境、経てきた歴史の違いにより私たち人間とどれほど違った、どれほど驚異的な生態の動物が生まれたのか、本書はそれを教えてくれる。
本書は一応、分類すれば「ポピュラー・サイエンス」の本ということになるのだが、読むのに高度な科学知識は必要ない。もちろん著者は専門の研究者として極めて科学的に研究をしているのだが、その成果の一つである本書は、言ってみれば「異文化理解の本」になっているからだ。
相手は人間ではなく、人間とは異種の動物たちだが、それぞれがどのような社会を作りどのように暮らしているかを知る、という意味では、外国の文化、社会を知る、というのと本質的には同じである。自分と異質なものを知りたいという好奇心のある人ならば誰でも楽しめるし、得るものがある。
本書にはもちろん、知らなかったことを知る喜びがあるのだが、単に雑学知識が増えるということではない。最も大事なのはそれまでになかった新たな視点が得られることだろう。視点が増えれば、長期的には人生がまったく違ったものになる可能性がある。本書が読者にとってそういう一冊になれば訳者にとってこれ以上の喜びはない。
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『動物のひみつ』 アシュリー・ウォード【著】、夏目大【訳】☆売れてます! 発売たちまち大重版!!☆
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☆日本経済新聞夕刊・書評掲載(2024/4/11)☆ 「「渡り鳥がVの字で飛行する際の驚くべき省エネ戦略や、ライオンの子殺しの真相など、次々と「動物のひみつ」が明らかになり、人間や動物の社会性って何なんだろうと考えさせられる。辞書のように分厚い本だが、あれよあれよという間に読み進んでしまい、感動の読後感が残った」(竹内薫氏・サイエンス作家)
☆ダヴィンチWEB・書評掲載(2024/4/10)☆ 「突き抜けた動物愛を持つウォード博士の視点は、まさに独特。目次を見ると「シロアリは女王のために自爆する」「ゴリラは自分の罪をネコになすりつける」「クジラは恨みを忘れない」など、どれも興味深いものばかりです。厚さ約4センチで、読み応えたっぷりの一冊」(中村未来氏)
☆世界各国で絶賛続々! あなたの世界観が変わる瞠目の書!!☆
山極壽一(霊長類学者・人類学者) 「オキアミからチンパンジーまで動物たちの多彩で不思議な社会から人間社会の本質を照射する。はっとする発見が随所にある」
橘玲(作家) 「アリ、ミツバチ、ゴキブリ(!)から鳥、哺乳類まで、生き物の社会性が活き活きと語られてめちゃくちゃ面白い。……が、人間社会も同じだと気づいてちょっと怖くなる」
サンデー・タイムズ紙 「非常に印象的な本だ。ウォードは動物を細部までよく見ていて、生き生きと書いている」
ガーディアン紙 「魅力的で並外れた物語。サイエンスの面白さを伝えるとびきりの贈り物だ」
ウォール・ストリートジャーナル紙 「あらゆる場面で読者を驚かせるものが待っている。この本を支えているのは、著者のストーリーテリングの天賦の才能だ」
スティーブ・ブルサット(エディンバラ大学教授・古生物学者、ニューヨークタイムズ・ベストセラー著者) 「著者は動物が一般に考えられているよりもずっと社会的であることを明らかにする。最新の科学に深く切り込みながら、古い固定観念を打ち砕く。著者が描くのは、牙と爪で血の色に染まった自然ではなく、協力と協調にあふれた自然の姿だ」
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