『やまなし』で宮澤賢治が伝えたかったことは何か?あらすじから解説まで!
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宮澤賢治

『やまなし』で宮澤賢治が伝えたかったことは何か?あらすじから解説まで!

2019年3月3日 2022年9月15日

『やまなし』とは?

『やまなし』は宮沢賢治の小説です。小学校の授業で読んだ人も多いかもしれません。

ですが、クラムボンの正体に気を取られて、作者が伝えたかったことにあまり目を向けられない作品です。

ここでは、そんな『やまなし』のあらすじ・考察・感想までをまとめました。

『やまなし』-あらすじ

これは小さな谷川の底を写した二枚の青い幻燈です。

五月。二匹の小さな兄弟ガニが水底でクラムボンについての話をしていました。

その上には魚が泳いでいて、魚が上を通るたびに太陽が隠れるので、水の中は暗くなったり明るくなったりしました。

カニたちが魚を見ているその時、水の中に鉄砲玉のようなものが飛び込んできて魚をさらっていきました。

カニたちが恐怖でブルブルと震えているとお父さんカニがやってきて、「それはカワセミだよ」と教えました。

お父さんカニは「心配するな」と言いますが、兄弟ガニの恐怖はとれませんでした。

12月。カニの子らも大きくなっています。その日は月の光がきれいだったので遅くまで起きて、兄弟で泡の大きさ比べをしていました。

お父さんガニがもう寝なさいと言ったその時、トブン。上から何かが落っこちてきました。

「カワセミだ」兄弟ガニは首をすくめて言いました。お父さんカニはそれをよくよく見てから言いました。「そうじゃない、あれはやまなしだ」。

親子カニは三匹で流れるやまなしのあとをついて行くと、やまなしは木の枝に引っかかっていました。

やまなしは美味しそうでしたが、親子ガニはやまなしの酒ができるまで食べるのは待つことにして、自分たちの穴へ戻っていきました。

私の幻燈はこれでおしまいです。

『やまなし』-概要 主人公 兄弟カニ 物語の仕掛け人 父カニ、カワセミ、魚 主な舞台 谷川の底 季節 五月の昼。十二月の夜。(十一月とも) 作者 宮沢賢治

『やまなし』-解説(考察)

・宮沢賢治が伝えたかったことは何か?

結論から言うと、『やまなし』で宮沢賢治が伝えたかったことは、

  • 死の怖さと生の喜び

だと考えられます。

その理由を説明するには、まず作品の対比構造を押さえておく必要があります。

『やまなし』は「五月」と「十二月」の二つの場面からなる作品です。

実はこの2つの場面は、きれいな対比構造になっています。

たとえば、「五月」は太陽の出ている昼、「十二月」は月明かりの差す夜といった感じです。

ほかにも対比箇所はたくさんあるので、どこが対比しているか簡単に分かる表を作りました。

『やまなし』五月と十二月の対比表   五月 十二月 季節 ・初夏 ・初冬 光 ・太陽の光 ・月の光 水底 ・青く暗い鋼のよう ・金剛石(ダイヤモンド)の粉をはいているように青白い 冒頭に出てくるもの ・魚やクラムボン(有機物) ・白い柔らかな円石や金雲母のかけら(無機物) 死ぬもの ・クラムボンと魚(生き物の死) ・やまなし(植物の死) 子カニの会話 ・幼稚的であまり成り立っていない ・双方向的で成り立っている 落ちてくるものの形 ・カワセミの尖ったくちばし ・やまなしの丸い影 落ちてくるもの ・生命を奪うもの(カワセミ) ・生命を与えるもの(やまなし) 子カニの行動 ・カワセミが来てぶるぶると震える ・やまなしが来て踊るようについて行く お父さんカニの行動 ・子どもらを守る ・子どもらを導く 終わり方 ・不安(クローズエンド) ・期待(オープンエンド)

このように、『やまなし』は全ての文章が対比に関連していると言っても良いくらい、対比を意識して描かれています。

また「五月」は、クラムボンが魚に食べられ、魚がカワセミに食べられるという生食連鎖の形が出来上がっています。

一方の「十二月」は、やまなしの実を食べずに酒にしているので、菌による発酵という腐食連鎖の形が出来ています。

この点も、生食連鎖と腐食連鎖という対比構造になっていることが分かります。

これらを全体的に見ると、「五月」は暗い雰囲気で、「十二月」は明るい雰囲気です。

もっと言えば、五月は死のイメージがあり、十二月には生のイメージがあるでしょう。

『やまなし』にはこうした、

  • 死と生のテーマ

が対比によって強調的に描かれています。

ですので、宮澤賢治が伝えたかったことは「死の怖さと生の喜び」だと考えられるのではないでしょうか。

実は、この死と生というテーマは、『やまなし』の初期形と完成形を比べるとグンと掘り下げられていることが分かります。

次はその理由を、賢治の妹・トシの死と関連させながら見ていきます。

・妹トシの死

『やまなし』の作品が成立する少し前、宮沢賢治の妹であるトシが結核により死去します。

かなりの妹思いだった賢治は悲しみの淵に沈み、詩作も何も手が付かなかったといいます。

トシが亡くなったのは1922年11月27日。

『やまなし』が発表されたのは1923年4月ですが、初期形が書かれていたのはトシの死よりも前になります。

『やまなし』が書かれた当初、宮澤賢治は妹が死ぬなどもちろん思ってもみなかったでしょう。

しかし『やまなし』発表の前に、妹の死というショッキングな出来事を挟んだために、作品にもその死の色合いが滲みます。

後でも詳しく述べますが、初期形の『やまなし』と完成形の『やまなし』を見比べてみると、明らかに「五月」の場面で死のイメージが濃くなっているのです。

『やまなし』という作品は、妹の死を体験する以前の賢治が書いたものがまずあり、その後に妹の死を体験した賢治が手を加えた。

そのため、『やまなし』はやさしい童話の雰囲気と不穏な死の雰囲気が重なり、結果的に不思議な調和を併せ持った稀有な作品となったのではないでしょうか。

こうした妹・トシの死が、『やまなし』の死と生というテーマを一層深めたと考えられます。

・初期形と完成形の違い

初期形と完成形の違いは、魚の場面が特徴的です。

百聞は一見にしかず。少し長いですが、実際に見てみると分かりやすいです。

初期形の『やまなし』 

魚がこんどはそこら中の黄金の光をまるっきりくちゃくちゃにしておまけに自分はまばゆく白く光って又上流の方へのぼりました。 「いゝねえ。暖かだねえ。」 「いゝねえ。」 「お魚はなぜあゝ行ったり来たりするんだらう。」 「お魚は早いねえ。」 その魚がまた上流から戻って来ました。今度はゆっくり落ちつ いて水にだけ流されてやって来たのです。その影は黒くしづかに砂の上をすべりました。 「お魚は……。」

宮沢賢治『校本宮澤賢治全集第十巻』,p7,筑摩書房,1995

全体的にのどかな川の底という印象を受けます。

魚の色も「まばゆく白く光って」いるところも覚えて置いて下さい。

次は完成形の『やまなし』です。

教科書などに載っているのはもちろんこっちですね。

完成形の『やまなし』 

魚がこんどはそこら中の黄金の光をまるっきりくちゃくちゃにしておまけに自分は鉄いろに変に底びかりして、又上流の方へのぼりました。 『お魚はなぜああ行ったり来たりするの。』 弟の蟹がまぶしそうに眼を動かしながらたずねました。 『何か悪いことをしてるんだよとってるんだよ。』 『とってるの。』 『うん。』 そのお魚がまた上流から戻って来ました。今度はゆっくり落ちついて、ひれも尾も動かさずただ水にだけ流されながらお口を環のように円くしてやって来ました。その影は黒くしずかに底の光の網の上をすべりました。 『お魚は……。』

魚の色が、白→黒へと変化しています。

それから、「悪いことをしてるんだよとってるんだよ」というところも死を連想させて少し怖いですね。

また、魚が戻ってくる場面も「お口を環のように円くして」いる様子を描き、捕食シーンであることを明確にしています。

このように、『やまなし』の初期形と完成形を比べてみると、初期形は穏やかなのに対して、完成形は死のイメージが強調されていることが分かります。

こうした違いがあるゆえに、妹・トシの死が作品に「死」のイメージを強めたのではないかと考えられます。

クラムボンの正体は?

クラムボンの正体は様々な説があります。

  • アメンボ
  • プランクトン
  • 母親
  • カニ語
  • 人間
  • 解釈してはいけない

などです。

現在は「解釈してはいけない」が主流の説として落ち着いているようですが、個人的にはプランクトンだと思っています。

クラムボンの様子は明らかに「口を丸く開けた魚」の動きとリンクしているので、捕食される生き物であるというのが、素直な読み方ではないかと考えます。

ほかには光や泡という説も個人的には好きですね。

『やまなし』-感想

・子どもの頃に考えたクラムボンの正体

色んな説がありますがクラムボンの正体は分かりません。

賢治が答えを残していないので、いずれの説も想像の範囲を超えることがないからです。

小学生のころはクラムボンが何か分かっていたような気がします。

これはクラムボンの実像を把握していたという意味ではなく、自分の感性でイメージするクラムボンを隙間なく信じていたという意味です。

そこに論理は通用しませんね。

友達とクラムボンの絵を描いたりもしました。

妖精を描く友達、どうみてもまっくろくろすけを描く友達、ぐちゃぐちゃにした線をクラムボンだと言って譲らない友達。

色々いましたが、そのどれもが本人にとっては正解です。

今振り返ってみると、非現実的なモチーフを描く子が多かったですね。

「不思議ななにか」という印象が強かったのでしょうか。

今でも『やまなし』を読むと、子どもの頃に体験したあの感覚が、少し蘇ってくるような気がします。

以上、『やまなし』のあらすじと考察と感想でした。

この記事で紹介した本

やまなし (画本宮澤賢治) 宮沢 賢治

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