真夏の水辺でバードウォッチング。ユーモラスなササゴイとヨシゴイを見に行こう!
各地で最高気温が連日40度Cに達するような猛暑で、外出も躊躇してしまう今年の夏ですが、例年「鳥枯れ」とも言われるこの時期は涼しい(?)早朝の水辺での野鳥観察がおすすめです。今回はちょっとユーモラスな2種類の水辺の野鳥を紹介しましょう。 冒頭の写真は、堰の下で跳ねるウグイを見つめるササゴイ。 Text 中村雅和 中村雅和さん 野鳥好き編集者 幼少期から生き物や鉄道に親しむ。プロラボ、住宅地図会社の営業マン、編集プロダクション、バス運転士、自然保護団体職員などを経てフリーの編集者に。現在はライターの仕事をしながら、バードウォッチングと野鳥撮影に勤しんでいる。 著者ページへ 中村雅和の「旬の推しドリ」CONTENTS
- 高貴な名をもつサギの仲間
- ササゴイの狩場は増水した川の堰だった
- 名ハンターの一閃を目撃
- ヨシゴイは「ミョウガの妖精」とも呼ばれる日本で最小のサギ
- 極楽浄土のようなハス池で子育て
高貴な名をもつサギの仲間
堰の近くに陣取り、魚をじっと待つササゴイ。この態勢になると、幾分、警戒心も緩むようだ。夏の身近な水辺といえば、川や池、それに田園地帯ですね。そこでお馴染みの野鳥はコサギやアオサギなどのサギ類。他に、やや見つけにくいですが、夜行性のゴイサギが川岸の茂みなどで昼間寝ている場面に遭遇することもあります。
サギの仲間はその生息環境や個体によっては警戒心が強く、容易に近づけない場合もあります。が、餌探しの最中に注意深く接近、もしくは気付かれないように予め待機していれば観察も比較的容易です。
夏のサギ類でまず探してみたいのはササゴイです。日本で繁殖する夏鳥で、漢字では笹五位と書きます。全長は52cmと、サギ類ではいちばん身近なコサギよりひと回り小さいです。主に翼の羽根が白く縁取られていて、これが笹の葉(特にクマザサ)に似ていることからこの名があります。ササゴイ。ん? サギではないの? と思いますよね。この「五位」の名には由来があります。
平安時代、京都の御所に滞在していた醍醐天皇がサギを見つけ、従者に捕らえるよう命じました。サギは飛び立とうとしますが、すかさず従者が「帝の御意なるぞ」と言うと、サギは従順に捕らえられ、喜んだ天皇がサギに正五位の位を与えたということです。
こちらはゴイサギ(五位鷺)。ササゴイよりもずっと大きく、赤い目と濃紺色の頭や背が特徴。夜行性で、昼間は水辺の茂みでじっとしている。北日本以外では一年中見ることができる。『平家物語』に記されたこの故事に登場するのはササゴイとは別種のゴイサギ(五位鷺)と言われていますが、サギの仲間には、この後紹介するヨシゴイのほか、ミゾゴイ、サンカノゴイなど「五位」のつく名前を持つものがいます。
首や脚がやや短く、ずんぐりとしたフォルムが共通する鳥たちです。文献によってはゴイサギの仲間と記しているものもあります。高貴な名前の背景に、日本人と彼らとの長く特別な歴史を感じずにいられません。
ササゴイの狩場は増水した川の堰だった
対岸の方から石を伝って至近距離までやってきたササゴイ。こちらをやや警戒しているようにも見える。私が初めてササゴイを見たのは多摩川中流の堰。数年前の8月のある日、比較的流れが速く水量も多い日を狙い、大雨が降った2日後に出かけてみました。果たして、堰に到着すると、居ました! というか、正しくはすでに堰の流れにじっと目を凝らして固まっているササゴイに気付かず「飛ばして」しまったのです。
「ごめんね~」と呟きつつ、堰の横の背の高い草の茂みに30分ほど隠れていると、ササゴイが対岸の堰の石に佇んでいるのが見えました。その後、安心したのかササゴイは堰の下流側の石をぴょんぴょんと跳ねながらこちらに向かってきました。
水量が増えた堰の周囲にはオイカワやウグイなどの魚が集まっていて、そこはササゴイの大事な狩場だったようです。早速、茂みからそーっと望遠レンズを出して、名ハンター・ササゴイの魚獲りのシーンを撮影しました。
泡立つ水面に魚影を探すササゴイ。一切の動きを止め、ゴウゴウという水音の中で集中している様子が分かる。名ハンターの一閃を目撃
目にも止まらぬ速さでウグイを捕らえたササゴイ。普段より水量の増した堰で、その流れをジーーーっと見つめるササゴイ。置き物のように微動だにしません。5分ほど待ったその瞬間はまさに一閃! 目にも止まらぬ早技で魚を捕らえました。
シャッターボタンにかかる人差し指が反応したときには、ササゴイはすでに魚を咥えていました。撮る方としてはまさに魚を捕らえた瞬間を狙いたかったのですが。
あっという間に大きなウグイを飲み込んだササゴイを双眼鏡で覗くと、開いたくちばしから長い舌が見えています。ドヤ顔で舌なめずりしているような滑稽、いや誇らしげな姿がそこにありました。
大きなウグイをゲット! もちろん狩りに失敗することもあるし、獲物が数センチの小魚の場合も多い。ササゴイが真剣な分、見ている方はその都度楽しい。場所によっては、珍しい魚獲りのテクニックを持ち合わせているササゴイの話を聞きます。
流れの穏やかな池などで、魚の餌に見立てた葉などの擬似餌をササゴイ自身が水面に投げ入れ、それを餌と間違えて近づいてくる魚を捕らえるというのです。残念ながら私はまだその場面を目撃できていません。次の機会にご紹介できたらと思っています。
ササゴイを見つけたら、時間をかけてその個体の行動パターンを観察してみよう。ササゴイを見つけるポイントは、紹介した堰のように魚が集まるところ。他には川と川の合流点で水深が浅い場所も要チェックです。そのような場所にはササゴイ以外にもダイサギやアオサギが魚を求めて集まりますから、彼らを目印にするのも一つの方法ですね。
ひとつ注意が必要なのは、サギの中でも力関係があるため、ササゴイの場合は他のサギがいない時を狙うとよいということ。近くで繁殖していれば、ササゴイは必ず同じ狩場に戻ってきます。
ヨシゴイは「ミョウガの妖精」とも呼ばれる日本で最小のサギ
日本で最小のサギの仲間、ヨシゴイ。じっとしていると双眼鏡を使っても探すのは難しい。さて、もう一つのユーモラスなサギの仲間はヨシゴイです。全長は36cm。和名の「葦五位」が示す通り、主に葦原に生息する日本で最小のサギの仲間です。全身が褐色で、その姿形から親しみを込めて「ミョウガの妖精」などと呼ぶバードウォッチャーもいます。
このヨシゴイも繁殖のため東南アジアなどから夏鳥として日本に渡ってきます。同じ「五位」のサギ類でも、ヨシゴイは忍者のように葦や蓮の葉の間を歩き回るため見つけることがやや難しい野鳥です。
長く器用に曲がる足指を使い、ハスの茎を伝って「隠密行動」をとることからハス池の忍者と言われることも。ヨシゴイが生息するのは広い河原や沼の葦原、ハスの池など。葉の隙間の多いハスの方がやや見つけやすいかもしれません。
双眼鏡で注意深く水面付近の茎を探してみてください。身体に比して長くしなやかに動くその指で、水面から垂直に伸びる葦やハスの茎を器用に横掴みしながら餌の小魚などを求めて移動しているヨシゴイが見つかるかもしれません。わずか200グラムといわれる軽い体重のなせる技に驚かされます。
ハスが茂る広大な池でヨシゴイを探すのはなかなか難しいので、飛翔を見逃さないようにしたい。ただ、繁殖地の池や沼はたいてい広大な面積のところが多いので、手っ取り早くヨシゴイを見つける方法としては飛んでいる個体を探す方が楽でしょう。
対空時間はそれほど長くはありませんが、広い葦原を移動する際、葦の高さギリギリのところをゆったりと飛ぶヨシゴイの姿はすぐに分かります。でも、それをレンズで追いながら撮るのは意外と難しいです。
ハスの花を背景に飛ぶヨシゴイ。くちばしの根元のあたりが赤味を帯びているのは繁殖期のオスならではの婚姻色が出現しているからだ。極楽浄土のようなハス池で子育て
ガマの葉が密生する茂みから姿を現したヨシゴイの幼鳥たち。ハスの池でヨシゴイを観察するバードウォッチャーのお目当ては、やはりピンク色のハスの花にちょこんと止まる姿。でもそんなカメラマンの思いを知ってか知らずか、飛び立ったヨシゴイをレンズで追うと、ほとんどの場合、ヨシゴイは見えるところには止まってくれず、葦やハスの葉の茂みにスッと消えてしまうのです。
8月ごろは巣立ちした幼鳥たちが葦の茂みに隠れていて、親鳥は幼鳥たちの居る場所にしばしば戻ってきますから、幼鳥の所在を確認しておき、親鳥が戻る時を狙って観察するのもいいでしょう。葦原から聞こえてくるヨシゴイの「オー、オー」という動物のような鳴き声にも気をつけてみましょう。
早朝に開花するハスの花は午後には大きく開いてしまい、朝の清楚な雰囲気とは程遠い姿になります。それでも、ヨシゴイがハスのピンクの花や、その根元に止まってくれるとシャッターチャンス到来です。
いつの間にか、ヨシゴイがスルスルと蕾まで登ってきて、シャッターチャンス! 俗に「シャワーヘッド」と呼ばれる、花びらの落ちた果托に止まるヨシゴイ。個人的にはミョウガというより「ハスの妖精」でいいのでは、と思うのだが。ササゴイとヨシゴイ、彼らの棲む環境には、他にもカワセミやオオヨシキリ、バン、カイツブリなども生息しています。
それぞれが住み分けながら生きている様子を観察するのも夏の水辺のバードウォッチングの醍醐味です。ただ、鳥見に夢中になっていると、いつの間にか日が昇って気温も軽く30度を超えます。河原やハス池は遮るもののない場所ですから鍔の広い帽子をかぶったり水分補給に気を配ったりしながら観察を楽しみましょう。
中村雅和さん
野鳥好き編集者
幼少期から生き物や鉄道に親しむ。プロラボ、住宅地図会社の営業マン、編集プロダクション、バス運転士、自然保護団体職員などを経てフリーの編集者に。現在はライターの仕事をしながら、バードウォッチングと野鳥撮影に勤しんでいる。