職質検挙は”警察官2人”より“1人”でしたほうが得? 「手柄」をめぐる、知られざる‟0.5件ルール”とは
職質検挙は”警察官2人”より“1人”でしたほうが得? 「手柄」をめぐる、知られざる‟0.5件ルール”とは

職質検挙は”警察官2人”より“1人”でしたほうが得? 「手柄」をめぐる、知られざる‟0.5件ルール”とは

職質検挙は”警察官2人”より“1人”でしたほうが得? 「手柄」をめぐる、知られざる‟0.5件ルール”とは 弁護士JPニュース編集部 働き方

2025年11月30日 10:37

警察官にとって「職務質問」は大きな手柄になる(naka / PIXTA)

「どこから来たの?」「なにをしているの?」

刑事ドラマではみることも多い、おまわりさんの職務質問シーン。なぜか逃げ出す万引き犯や泥棒などの容疑者を追いかけるシーンは定番だ。

勤続約20年の警察OB・安沼保夫氏にいわせると、こうした場面は現実ではそれほど多くはないという。大捕り物となれば、なおのことだ。

そうしたこともあり、「職質検挙」をすれば、「手柄」として、祝福の嵐が待っているという。今回は、そんな最もわかりやすい‟警察官のポイントアップ”について、安沼氏が実体験を交え、振り返る。

※ この記事は、安沼保夫氏著『警察官のこのこ日記』(三五館シンシャ)より一部抜粋・構成しています。

登録ナンバーの紹介をすると別人のもので…

「ちょっと一緒に来てもらっていいですか?」

自転車に乗る青年に声をかけて登録ナンバーとの照会をすると、自転車は別人のもの。最寄りの交番まで任意同行を求めてそう告げるやいなや、青年は自転車に乗って逃げ出した。

このとき私は近隣の交番に応援に来ていて、ひとりで夜のパトロール中だった。無線を取り出す暇もなく、あわてて自転車にまたがり、猛スピードであとを追う。

角を2つ曲がったところで、横倒しになった自転車を発見。乗り捨てて、そのまま走って逃げたのであろう。

まだ近くにいると踏んだ私は自転車のスピードを落として、付近を捜索する。急なダッシュで心臓がバクバクしているのとともに、「職質検挙」がちらつき胸もドキドキしてくる。

青年の様子からいって「リーチ」や「激アツ」どころではない。完全に「クロ」だ。

「自転車ドロ」に職質するとあっさり認めた

乗り捨てられた自転車から50メートルほど先で、民家と民家のあいだに身をかがめて潜む青年を発見。自転車を止めて駆け寄る。

私が近づくと、顔を引きつらせた青年はその場でゆっくりと立ち上がる。

「急に逃げ出すなんて、指名手配でもされてるの?」

じっくりと顔を見るとずいぶんと若い。たぶん大学生くらいだろう。

「いえ、違います」

目を合わせずに青年が答える。

「身分証見せてくれる?」

ポケットから財布を取り出して手渡してくる。私立大学の学生証で、20歳は超えている。

「これ、預かっとくよ」

本来であれば、勝手に学生証を取り上げることなどできない。相手は逃げ出した負い目から、こちらの要求を断りづらいと見越しての強引な提案だ。

こうして一応、相手の同意のもと、身分証を預かることができた。こうすれば、万一、再び逃げ出されても大丈夫。私は落ち着いて尋問を開始する。

「ところで、あの自転車はどうしたの?」

「すみません。盗ってきてしまいました」

早い。あっけなく青年は罪を認めた。じつはここで自転車のことをしらばっくれられると立件は難しい。

素直な青年で助かった。

ホシが「落ちた」あとはなるべく穏便に大ごと感を出さずに粛々と手続きを進める。

聞くと盗んだ場所がすぐそばだったため、犯行場所へ案内させて、そこで青年に「ここから盗りました」というふうに指でさし示してもらったところを写真撮影しておく(これを引き当たりという)。

素直に認めた自転車ドロを署に同行して

交番に戻ったあと、到着したパトカーに乗せて、署まで同行する。署で供述調書を取るためだ。

警察官は捕まえて終わりではない。煩雑な書類手続きをこなさなければならないのだ。

とはいえ、「職質検挙1件」が獲得できた私は高揚感と安堵感に包まれて、面倒な書類作成も苦にはならない。

その後、被疑者の家族に連絡すると、母親が迎えに来た。

身柄引請書を書いてもらい、被疑者を解放する。そして、書類を揃えて検察に送る。

われわれおまわりさんの仕事はこれで一件落着。刑事ドラマにくらべるとはるかに見劣りするが、街のおまわりさんが経験するのはせいぜいこの程度の事件なのだ。

「職質検挙」があると、噂は駆けめぐり…

職質検挙があると、噂はすぐに管内を駆けめぐる。

勤務を終えて署に戻ると、会う人会う人に「やったな」とか「おめでとう」といった祝福の声をかけられる。まんざらでもない気分でいると、不満顔のY巡査部長が近づいてくる。

「なんだよ、おまえ。俺と一緒の時は本気出さねーのかよ?」

2人で「職質検挙」をすれば、1人0.5件とカウントされる。つまり、なんで職質検挙が自分と一緒のときではないのだ、と言いたいらしい。返答に困った私が「運がよかったです」と答えると、Y巡査部長は「ふん」と鼻で嗤って去っていった。

Y巡査部長には悪いが、応援で運よく「職質検挙1件」を独り占めした私はルンルン気分で帰途につく。

■安沼保夫(やすぬま・やすお) 1981年、神奈川県生まれ。明治大学卒業後、夢や情熱のないまま、なんとなく警視庁に入庁。調布警察署の交番勤務を皮切りに、機動隊、留置係、組織犯罪対策係の刑事などとして勤務。約20年に及ぶ警察官生活で実体験した、「警察小説」では描かれない実情と悲哀を、著書につづる。

  • この記事は、書籍発刊時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
警察官のこのこ日記 安沼 保夫 三五館シンシャ

「ノルマに駆けずり回る仕事」  警察小説には描かれない おまわりさんの事情 ――配属ガチャ、ハズレました 本書をきっかけに警視庁内で「犯人探し」が始まるかもしれない。私に対する非難や中傷もあるだろう。だが、誰になんといわれようと、本書にあるのはすべて私が実際に体験したことである。 ――現場で汗を流す末端の警察官の、よいことも悪いことも含めたリアルな姿を描きたいと思う。

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