【ピアノ】モーツァルト「ピアノソナタ ト長調 K.283 全楽章」演奏完全ガイド
スポンサーリンク 目次- 【ピアノ】モーツァルト「ピアノソナタ ト長調 K.283 全楽章」演奏完全ガイド
- ► はじめに
- ► 演奏のヒント
- ‣ 第1楽章
- · 提示部 第1主題:1-22小節
- · 提示部 第2主題+コデッタ:23-53小節
- · 展開部:54-71小節
- · 再現部:72-120小節
- ‣ 第2楽章
- · 提示部:1-14小節
- · 展開部:15-23小節
- · 再現部:24-39小節
- ‣ 第3楽章
- · 提示部:1-102小節
- · 展開部:1-171小節
- · 再現部:172-277小節
- ‣ 第1楽章
- ► 終わりに
【ピアノ】モーツァルト「ピアノソナタ ト長調 K.283 全楽章」演奏完全ガイド
► はじめに
曲の背景
この作品は、1774年春から1775年初めにかけてのミュンヘン旅行のために書かれた5曲からなる「第1群」の最後を飾るソナタです。この時期のモーツァルトは、ヨーゼフ・ハイドンから大きな影響を受けていました。
1773年夏、モーツァルトはウィーン宮廷への売り込みを試みましたが、残念ながら成功には至りませんでした。当時のウィーンには、ハイドンをはじめとする「前期ウィーン楽派」の優れた作曲家たちがひしめいており、若きモーツァルトが入り込む余地はなかったのです。
しかし、この経験は音楽的には非常に実り多いものでした。特にハイドンの作品はモーツァルトを魅了し、その作風は当時の作品に色濃く反映されています。K.283もその一つで、堅実で洗練された構成が特徴的です。
(参考文献:ピアノ音楽事典 作品篇 / 全音楽譜出版社)
演奏難易度と推奨レベル
この楽曲は「ツェルニー30番中盤程度」から挑戦できます。
本記事の使い方
この楽曲を、演奏のポイントとともに解説していきます。パブリックドメインの楽曲なので譜例も作成して掲載していますが、最小限なので、ご自身の楽譜を用意して読み進めてください。
各セクションごとに具体的な音楽的解釈を示していますので、練習の際に該当箇所を参照しながら進めることをおすすめします。
► 演奏のヒント ‣ 第1楽章 · 提示部 第1主題:1-22小節
テンポ目標:♩= 120
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、1-4小節)
曲頭の対話構造
冒頭部分では、カギマークで示したように、リズムと音域の両面から「問い」と「応え」の対比関係が見られます。
リズムによる対比:
・問い:16分音符を含む細かな音価(軽さ) ・応え:4分音符中心の長い音価(深さ)
音域による対比:
・問い:高い音域(軽やかな印象) ・応え:低い音域(深みのある印象)
演奏上の配慮:
・応答部分はやや太い声で演奏することで、「軽さ ⇆ 深さ」の対比がより明確になる ・同じダイナミクスで弾く演奏も多いようだが、対比を意識した表現を推奨
重要な注意点:
・小節頭に来ている音でも、すべてを強調してはいけない ・1-4小節の各1拍目のメロディ音は、フレーズ終わりの音なのでおさめる ・ここでの左手の伴奏パートは、3拍子の基本的な拍子原則を保つ
譜例(1-6小節)
fp の解釈とバスライン:
・5-6小節に出てくる fp は軽いアクセントと解釈し、びっくり箱的な表現は避ける ・5-7小節はバスが順次進行で下行していくため、これらのバランスをよく聴いて演奏する
スタッカートの表現:
・7小節目のメロディのスタッカートは4分音符についているため、短くなり過ぎずに ・明るい表情で演奏する
譜例(8-10小節)
ヘミオラの理解と表現
左手パートの打点が隠し持っているリズムに注目してください:
・8-9小節目という合計6拍分が「2拍+2拍+2拍」で組み立てられている ・右手パートを見ても、2拍ごとに音型の運動方向が変わっている ・このようなリズムを「ヘミオラ」という ・ヘミオラとは、「3拍子系の曲で、2つの小節を3分割するリズムのとり方」のこと
重要な注意点:
・3拍子だからといって、9小節目の頭のFis音を強調してしまわない ・「2拍+2拍+2拍」の音楽が見えにくくなってしまう ・ここでは、左手パートの打点が隠し持っているリズムでヘミオラが表現される ・したがって、メロディは細かな音符の横流れを重視して、特別な重み入れはせずに弾き進める
譜例(16-19小節)
モチーフの再利用:
・16小節目から始まる16分音符の素材は3回繰り返され、3回目が長いフレーズになっていることを意識する ・軸の音を意識して16分音符の各裏の音は軽めに弾くようにすると、音楽的に響くうえ、演奏もしやすくなる
興味深い事実
ここでの動機素材は、モーツァルト「ピアノ協奏曲 第17番 ト長調 K.453 第1楽章」のカデンツァにおいてもそっくりの状態で出てきます。実際に音源を聴いてみましょう。
対比の作り方と「tr」の弾き方:
・23小節目からの p をしっかりと対比にするために、22小節目は f で堂々と演奏する ・この小節の tr は、「Mi Re Do Re」もしくは「Re Mi Re Do Re」で弾くのが慣例
· 提示部 第2主題+コデッタ:23-53小節
2声的書法への配慮:
・23小節目からの p は空気を変えて演奏する ・右手はシンコペーションになっており、左手は2声的な書法になっている、シンプルながらも工夫された書法 ・左手は2声を意識し、動くバス音をやや抽出し、ステイするA音は大きくならないように弾く
ダイナミクスと音価の表現:
・25小節目では、メロディの求心力にしたがって少し膨らませて、26小節目の頭へ向かう ・26小節2拍目のメロディE音は4分音符伸ばし、短く切らないように注意する ・30小節目の4分音符は、原典版ではスタッカートが付いているので区別する
変奏部分:
・27小節目からは変奏 ・30小節3拍目の16分音符は、オーケストラで想像し、別の楽器で演奏しているイメージを持つ ・この16分音符はすべて右手で弾き、31小節目の頭のバス音から左手で弾く
譜例(31-34小節)
f の解釈とエネルギーの変化:
・31-34小節で出てくる2音1組のアーティキュレーションは、後ろの音が強くならないように ・毎回小さなデクレッシェンドがついているイメージで弾く
ダイナミクス表現
31小節目からは、①〜③まで3回にわたってsubitoで f になりますが、この f をすべて同じ大きさで弾いてしまうのは音楽的とは言えません:
・1回目よりも2回目、2回目よりも3回目、というように音域が上がっていく ・したがって、3回目の f がこの中での頂点となるようにニュアンスを作る ・エネルギーの上昇は音域の上昇だけに見られるのではなく、3回目はその主張が広がっていることからも読み取れる ・こういった音楽のエネルギーの変化は、ダイナミクス記号のみを見ていても読み取れないことがある ・必ず、音域や音のカタチなどにも目を向けるようにする
モーツァルトのダイナミクスについて
モーツァルトのダイナミクスはあまり細かく書かれていません。「新版 モーツァルト 演奏法と解釈」(著:エファ&パウル・バドゥーラ=スコダ)によれば、モーツァルトの f は大きな音から中くらいの音量まで幅広い範囲を含み、同様に p も豊かで歌うような mp からきわめて弱い p までを意味します。強弱はそれぞれの作品の枠組みの中で解釈されなければなりません。
繰り返しと縮小、テンポキープ:
・38小節目からは繰り返しだが、2小節縮小されている ・40-41小節では、左手に出てくる8分音符の刻みがテンポキープの要 ・右手のパッセージのみに気を取られずに、左手も意識する
追行句の扱い:
・43小節目からは、16小節目で出てきた素材の変奏 ・左手の追っかけ(追行句)を右手の先行句とニュアンスを合わせることで、追っかけているイメージを活かす ・追行句が先行句よりも大きくなってしまわないように注意する
43-44小節の tr:
・43-44小節の tr は主要音(G音)から弾き始める ・モーツァルトのトリルは上から入れるのが通常 ・しかし、ここでは直前に16分音符でA音が鳴っているため、同音連打を避けるために主要音から弾く ・「1と3」の指を使って弾くのを推奨
譜例(45-50小節)
小節構成を活かしたダイナミクス処理
大譜表の下へカッコで示して書き込んだダイナミクスは、モーツァルト自身によるダイナミクス指示で、大譜表の中へ書き込んだダイナミクス指示は、「モーツァルト ピアノ・ソナタ演奏と解釈」 (著 : 山崎孝)で提案されているダイナミクス指示です。
45小節目からのシンコペーションは、23小節目からの部分が出所。45小節目からは、補足リズムがヘミオラと組み合わされています:
・右手下声部と左手が10度の音程関係を保ちながら動く ・その間隙を縫うように、メロディが補足リズムとしてシンコペーションで現れる ・結果として、凝っていながら優美な音楽的テクスチャーが形成される
この箇所は:
・「A(2小節)+B(1小節)」 ・その繰り返しで「A’(2小節)+B’(1小節)」
という小節構造となっており、それにフィットさせるかのように「p → mf 」→「mp → f 」とチェンジさせることができます。
・Aの部分はヘミオラになっている ・ヘミオラで構成された2小節がひとかたまりで、それに、1小節分のまとめ的な小節としてBが挿入されている ・BはAと比べて言い切るようなキメにも感じられる音遣いになっている ・したがって、ここでダイナミクスを上げるのは理にかなっていると言える
単純な「2+2」などではなく少し変わった小節構成をしているところは:
・必ず、譜読みのときに整理してどのような構成になっているのかを見抜いておく ・そうすることで、「小節構成を解釈に活かす」という選択肢も候補へ入れることができるようになる
提示部の終結:
・51-52小節の左手の音型は、モーツァルトのソナタで度々見られるもの ・バスを深く響かせ、1と2の指で演奏するトリルは軽く弾く ・51-52小節の左手全体で持続音になっているイメージを持つ ・提示部の最後(53小節目)は弱めず、堂々と締めくくる
· 展開部:54-71小節
展開部の独自性:
・展開部からは、提示部の素材ではなく、新しい素材が出てくる ・これはこの時代のソナタの展開部においては比較的珍しい手法
装飾音を拍の前に出さない:
・モーツァルトの装飾音は、拍の前に出さないのが慣例 ・54小節目と56小節目の装飾音は、左手パートが不在なので拍の前に出してしまいがち ・出さずに、休符の開始と同時の位置に合わせる
音型の理解と演奏:
・54小節目から左手パートは上行していく ・右手は断片的に上行音型を見せたり下行音型をみせたりする、少し即興的な印象が感じ取れる
・58小節目からは変奏 ・「So La So La」「Do Re Do Re」のトリル音型が重くならないように気をつける
移行部:
・62-71小節は移行部 ・62-63小節の右手パートは、32小節目の素材の変奏になっている
同音連打:
・62小節目から始まる左手の同音連打は、「5-1-2-1-2-1-2-1-2-1-2-1」のように指を変えると弾きやすい ・あくまでも脇役なので、大きくならないように ・鍵盤のすぐ近くから打鍵するのが揃えるコツ
音運動の方向性の意識:
・68小節目からは、16小節目からの部分で出てきたリズム ・やはり断片的で、上行音型になっており、70小節2拍目からは下行音型になる ・こういった運動の方向性をしっかりと意識する ・70小節2拍目からのリズムは、27小節目からの部分で出てきたもの
譜例(70-73小節)
再現部への移行
この例における重要ポイント:
・★印の音は、前のフレーズの終止音であると同時に、再現部の開始音としても機能 ・展開部から再現部への移行をスムーズにするつなぎ目として機能
· 再現部:72-120小節
非常に短く、目立った転調もなかった展開部でしたが、対照的に再現部では、提示部には見られなかった転調が特徴的に響きます。この対照を理解しておきましょう。
再現部の特徴的転調:
・75小節目の3度音程の連続が、a-mollを引き出す ・この3度音程の連続は、7小節目の左手パートの縮小型と考えることもできる
譜例(79-81小節)
正しいバス音の見極め:
・左手パートでC-durの「S(サブドミナント)」「D(ドミナント)」「T(トニック)」が形成されている ・80小節3拍目で和声が変わるので、H音がバス音 ・伴奏音型的に惑わされがちな箇所なので、譜読みのときに注意する ・バス音と勘違いしたA音を強調してしまうと、和声進行が変わってしまう
再現部の引き締まった構成:
・83小節目から、また16分音符のお馴染みのパッセージが始まる ・提示部でいう5-15小節にあたる部分が省略され、構成的に引き締まっている
移行の注意点:
・93小節目から94小節目への移行では、提示部とは異なり、左手パートの跳躍が伴う ・これに釣られて、93小節目の最後のD音が大きくなったり雑にならないように注意する
‣ 第2楽章 · 提示部:1-14小節
目標テンポ:♩= 60(Andanteなので、遅過ぎずに)
第1楽章を♩= 120で弾き、第2楽章を丁度半分の♩= 60で弾くことで、楽章同士の関連性も出せます。
曲頭のメロディ:
・スタッカートは短過ぎないように置くように弾いていく ・どんなテンポのスタッカートでも同様にピッと短く切ってしまわないように注意
左手の多声書法:
・曲頭から左手は多声書法になっている ・バスの動きを意識し、上声がうるさくならないように注意する
4小節2拍目
・8分音符は両手共にノンレガートで弾く
譜読みの注意点:
・原典版では、1小節4拍目と3小節4拍目のメロディにスタッカートはついていない ・対応する別小節ではついている箇所があるため、区別して整理しておく
譜例(5-6小節)
5-6小節のスタッカートの弾き分け:
・一番注意すべきなのは、スタッカートが付けられている音符の音価をきちんと弾き分けること ・特に「32分音符+スタッカート」の直後にくる「8分音符+スタッカート」は、釣られて短くなってしまいがち
5小節2拍目の注意:
・メロディに出てくるF音は「16分音符」 ・釣られて気づかずに32分音符で弾いている演奏を耳にするので気をつける
譜例(6小節目)
6小節目のトリル
・tr は、上記奏法譜のように弾くのを推奨
6小節目から7小節目への移行:
・7小節目からは f になるが、6小節目からの左手に継続性がある ・したがって、subitoで f にすると唐突感が出てしまうため、6小節4拍目でクレッシェンドを補っても構わない ・4拍目でメロディのフレーズが終わっているので、3拍目からクレッシェンドすると音楽的におかしくなる
譜例(7-8小節)
ダイナミクスの特徴:
・7-8小節でのダイナミクス指示はモーツァルト自身によるものだが、少し特殊 ・音型と逆を行くダイナミクス表現になっている ・メロディの音型的には上昇していき開いていくのに対し、デクレッシェンドが書かれていて音量的には閉じていく
音楽的解釈:
・譜例の直後、9小節目から第2主題が f で始まり、その音型は第1主題と対照的なものとなっている ・したがって、その f での出現を活かしたかったのではないかと考えられる ・上昇していき開いていく音型にデクレッシェンドがかかることで天国的な美しさを感じる ・実際にサウンドとしてもそのように聴かせたかった可能性がある ・表現的には比較的珍しいものなので、その音楽表現を目と耳との両方で確かめてみることを推奨
運指
・7-8小節の運指は楽譜の書き込みを参考に設定する
8小節目から9小節目への移行
・6-7小節の移行と同様に解釈可能
譜例(9-10小節)
表情の変化:
・9-10小節は、メロディは表情の変化をしっかりと感じて演奏する ・f の部分でも重くならないように注意が必要
9小節3-4拍目のメロディ:
・同じアーティキュレーションが3連続しているため、運指も「32 32 32」と毎回同じ運指を連続する ・そうすることで、ニュアンスを合わせることができる
譜例(11-13小節)
隠された3拍子:
・11-13小節は、小節線にとらわれずに音楽を読み取っていかなくてはならない ・4/4拍子だが、3拍子で音楽が進んでいく ・メロディラインだけでなくダイナミクス記号を見ることでも、その分割を見抜くことが可能
12小節1-2拍目
・メロディは「4小節1-2拍目のメロディ」からきている
13小節目
・「8分休符+フェルマータ」の部分では「?」がつくようなイメージで柔らかく一時停止する
· 展開部:15-23小節
展開部への移行:
・15小節目から展開部は、14小節3-4拍目からもう開始していると考える ・カノン風の追っかけのニュアンスを合わせるようにする
譜例(18-21小節)
18小節2拍目:
・反復になっている ・ここでも音楽の継続性があったうえで3拍目で f になっているので、2拍目にクレッシェンドを補って構わない
19-20小節の表現:
・19小節目の8分休符も「?」がつくようなイメージで ・3拍目からは左手に主役がくるため、右手の16分音符は控えめに弾く ・この2拍ぶんの16分音符が2回繰り返されて、その後に20小節3拍目の f に入るが、素材に継続性はない ・したがって、この場合の f はsubitoで表現するのが適切で、入るときにクレッシェンドは補わない
エコー表現
・21小節目の p はエコーのイメージで表現する
譜例(22-23小節)
メロディの受け渡し:
・22-23小節では、譜例で示したようにメロディが右手から左手へ受け渡されている(イエローライン) ・こういった受け渡しを譜読みのときに見抜く必要がある ・右手パートのみを弾いていると、どことなく一つのメロディとして成立しているように感じてしまうので注意が必要 ・脇役となる部分は f と書かれているが、やや加減してバランスを作るくらいで丁度いい
メロディの受け渡しを見抜く重要性:
・ラインを入れてくれている作曲家もいるが、基本的には演奏者が見抜く ・特に両手の音域が近いところでは、注意深く譜読みする
シンコペーション:
・23小節1-2拍目はシンコペーションになっている ・したがって、2拍目裏の8分音符には少し重みを入れる
展開部全体の特徴:
・展開部は、調性の変化が多いのが他の箇所にはない特徴となっている ・この点での提示部や再現部との対照を理解する
· 再現部:24-39小節
譜例(30-31小節)
運指
・30-31小節の運指は楽譜の書き込みを参考に設定する
音域の変化と運指:
・32小節目は、音域の変化を感じる ・9小節目と同様に、3-4拍目のアーティキュレーションの連続を「32 32 32」の指で統一する
運指統一による暗譜対策:
・36小節目の32分音符は、移調されているが、13小節目の対応部分と全く同じ運指で演奏可能 ・統一しておくことで、暗譜での混乱もなくなるのでおすすめ
ハモリのバランス:
・37小節目の両手のハモリによる二重奏は、同等くらいのバランスで弾く ・そうすると右手パートのほうが目立って聴こえる ・左手パートのほうが大きく聴こえてしまうバランスは避ける
短いコーダ
・38-39小節は短いコーダ
最終小節:
・最後の音では、ペダルを添えて響きを美しく切る ・離鍵(リリース)に気をつけたとしても、手のみでリリースすると音響の切れ目が割とバッサリといってしまう
‣ 第3楽章 · 提示部:1-102小節
テンポ目標:♩. = 80
Prestoの指定がありますが、装飾音を無理なく演奏できるテンポを選びましょう。
譜例(曲頭)
曲頭のトリルの弾き方:
・現行のヘンレ版付属の奏法譜では a) の5音で弾く方法が採用 ・ただし、Prestoでこれを弾くのはかなり難しい印象 ・「4音で弾く方法」もあるが、それでも結構難しい ・b) または c) のように「3音で弾く方法」を推奨 ・ピアニストでもこのように弾いている例が多い ・装飾音を細かく5音入れるためにテンポを落とすくらいであれば、装飾音はシンプルにPrestoで弾く ・そのほうが、この楽曲の軽快な性格の良さが出てくる
オルゲルプンクトと同音連打:
・1-8小節は主音のG音によるオルゲルプンクト ・左手の同音連打は、「512121212121」と指を変えるのを推奨 ・鍵盤のすぐ近くから打鍵するのが、音を揃えるコツ
右手の軸音と上行進行:
・9小節目からの右手は、各小節頭の音が軸音になっており、2度ずつ上行していく ・これらの音同士のバランスと、左手とのハモリのバランスを取る
13-17小節のアーティキュレーションとバスリズム:
・右手は、スラー終わりの音が強くならないように注意する ・2音1組のアーティキュレーションの部分はすべて同様
・左手は、バス音が3拍目にもきているので、3→1のエネルギーが働いている ・♩♪のバスリズムを意識する ・バス以外の音は極めて軽く ・指を高く上げ過ぎないのが、速く軽く弾くコツ
シンコペーション:
・18小節目からの右手はシンコペーションになっている ・したがって、食って入ってくる各4分音符を明確に弾く
譜例(25-28小節)
ダイナミクスの扱い:
・25小節目では f になるので、24小節2-3拍目にクレッシェンドを補う ・音楽が継続的なので、subitoでダイナミクスを上げるのは適切ではない
「重→軽」の小節構造を意識する:
・この譜例の場合、音の厚みや休符の使い方を調べることで、「重→軽→重→軽」の連結になっていることが分かる ・「一つ一つ一つ一つ」にならないよう、「重→軽」のつながりを意識する ・右手で演奏する和音を打鍵したら、その音をしっかりと聴きながら十分に音価を保って演奏するのがコツ
両手やりとりとダイナミクス:
・25小節目からは両手のやりとりをしっかりと聴きながら演奏する ・左手の1小節ごとに鳴らされるバスを明確に弾く ・そうすることで、33小節目から音域が上がる部分の対照がより明確になる
33-38小節の音域の変化とメロディの構造:
・左手は、やはり♩♪のリズムが含まれる ・メロディとバスのハモリのバランスをよく聴く ・メロディは、「1小節おきに小節頭にC音が出てくる」という、同じような音域をグルグルする作りになっている
場面転換と断片的モチーフ:
・39-40小節の和音は、指先をしっかりさせてはっきりと発音する ・そうすることで、41小節目からの p が活き、音楽的な場面転換になる
・43-45小節の両外声の持続は、打鍵した後もよく聴き続ける ・45小節目から出てくる断片的な16分音符は、重くならないように
素材の展開
・48小節目のメロディの最後の「So Fa La」が、次の小節から使われる
3度和音のバランス:
・56-57小節の右手は、3度和音を良く聴き、16分音符の各裏の音は軽く ・58小節目以降も同様に
譜例(65-68小節)
subitoのダイナミクス変化:
・65小節目から始まる p と f の交代は、subitoでダイナミクスを変える ・f の部分は、オーケストラをイメージする ・他楽器がアクセントキックで追加され、別の場所で鳴っているイメージが強く感じられる ・したがって、クレッシェンドは補わないでsubitoのほうが適切 ・subitoでダイナミクスを変えるのが難しく感じる場合は、65-68小節の f の部分の音をすべて左手で弾く
2打点1組の表現
・74-75小節のようなスラーがついていない左手も、後ろの音のほうが控えめに聴こえるように弾く
半音での連結
・77-78小節の左手は、半音での連結をよく聴きながら演奏する
技術的な選択肢:
・89-90小節の右手は、難しく感じる場合は、16分音符のはじめの音を左手で取ってしまうのも一案 ・ただし、16分音符すべてを右手のみで演奏したほうが、一息の感じを表現しやすい ・したがって、最終手段にする
左手が主役:
・93-96小節は左手が主役 ・右手のトレモロは持続音としてうるさくならないように注意する
譜例(97-100小節)
スタッカートとスラーの混在パッセージ:
・97小節目からの p で演奏される領域には、スタッカート中心でありながらも、スラーが含まれている ・このようなパッセージを音楽的に演奏するコツは、スラーに着目すること ・スラー始まりの音に少しだけアクセントを入れて、直後のスタッカートは軽く弾く ・このようにすると、スラーの表情が活き、相対的にその他のスタッカートの部分ですら音楽的に聴こえる
運指の参考
・97-100小節の運指は、楽譜の書き込みを参考に設定する
対比とペダリング:
・101-102小節の和音は明確に打鍵し、直後との対比を作る ・102小節目の和音では、発音と同時に短くペダルを踏む(アクセント・ペダル) ・そうすることで、和音の響きを強調することができる ・142-147小節の和音も同様に
· 展開部:1-171小節
譜例(107-110小節)
運指の工夫
・107-110小節の運指は、楽譜の書き込みを参考に設定する
譜例(115-122小節)
技術的な代替案:
・115-122小節の運指は、楽譜の書き込みを参考に設定する ・ここは難しく感じる場合は、レッド音符で示した音を左手で取ってしまうのも一案
譜例(123-126小節)
左右で異なるダイナミクスを表現する難しさ
・譜例に書き込まれているダイナミクスは参考に筆者が書き入れたものであり、原曲には何も書かれていない ・この部分の右手パートの音は小節頭にきているが、ここまで記述してきたのと同様に、強調しない ・しかし、その部分の左手には深く響かせたいバス音がきている
このような細かなアーティキュレーションも伴う場面で、左右の手で異なるダイナミクスニュアンスを表現しようと思うと、頭が混乱してしまうのではないでしょうか。
解決法:
・その部分のダイナミクスを両手で一致させてしまえばいい ・124-126小節の各小節頭のダイナミクスは mf に統一
左手の音型について:
・123-126小節の左手の音型は、モーツァルトのソナタで度々見られるもの(本ソナタの第1楽章でも見られる) ・バスを深く響かせ、1と2の指で演奏するトリルは軽く弾く ・123-126小節の左手全体で持続音になっているイメージを持つ
譜例(138-141小節)
運指と和音の処理:
・138-141小節の運指は、楽譜の書き込みを参考に設定する ・142-147小節の和音では、102小節目の和音のときと同様にアクセント・ペダルを活用する
半音の段階的活用:
・147小節目以降出てきていた半音混じりのメロディが、160小節目からは半音のトリル的な動きになる ・そして、168小節目からは高速半音階スケールになる ・このように「半音」が段階的に活用されていることを理解しておく
・160小節目から出てくる半音のトリル的な動きは、重くならないように注意する
譜例(158-161小節)
運指と技術的な代替案:
・158-161小節の運指は、楽譜の書き込みを参考に設定する ・ここは難しく感じる場合は、レッド音符で示した音を左手で取ってしまうのも一案
譜例(168-173小節)
休符に隠された半音階
「モーツァルト ピアノ・ソナタ演奏と解釈」(著:山崎孝 / 音楽之友社)という書籍の中に「休符に隠された半音階」という内容が書かれています。
譜例の小音符で示した音符群は、実際の楽曲には書かれていません。上記の書籍の中で、以下の内容と共に補筆されているものとなります。
「休符にも隠された半音階がある。この隠された音型を想像することは、休符を生きたもの、無音の音楽を表す。」
小音符は実際にはありません。しかし、半音階という特徴的なパッセージを2小節聴かされた後にパッと無音になると、直後は我々の心の中に半音階のサウンドが残っていて、無音のときにも錯覚として半音階を聴いてしまう、ということなのです。
· 再現部:172-277小節
譜例(268-271小節)
運指
・268-271小節の運指は、楽譜の書き込みを参考に設定する
堂々とした終結:
・曲尾のコーダは、オーケストラをイメージして堂々と演奏する ・両手1本のロングアルペッジョではなく、片手ずつついているアルペッジョなので、きっぱりと弾く
► 終わりに
本記事で解説した演奏上のポイントは、単にこの曲を弾くためだけでなく、他のモーツァルト作品や古典派のレパートリーを演奏する際にも応用できる内容です。
ツェルニー30番程度のレベルから取り組める作品でありながら、音楽的に深く掘り下げることができるのがこの曲の素晴らしさです。技術的な課題を克服しながら、モーツァルトの優美で知的な音楽世界をぜひ楽しんでください。
推奨記事:【ピアノ】モーツァルトのピアノソナタ解釈本5冊:特徴と選び方ガイド
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