祇園で火災を起こした三つ星割烹の「京都ならでは」の悲劇
2018.06.03- #週刊現代
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ややこしい問題が次々と…
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京都でも有数の老舗が火元になった火災。店も常連も失って、主人は失意に暮れていることだろう。しかし京都という土地柄、最もこたえるのは周囲からの厳しい視線。茨の道が待ち受けている。
三島由紀夫も通った名店
5月12日の昼過ぎ、大勢の観光客でにぎわう週末の京都・祇園の街に煙が立ち込めた。
八坂神社や南座などの観光スポットからほど近い四条通。それに面した細い路地を通り抜けた先にある高級割烹『千花』から出た火は、あっという間に燃え広がり、最終的に7棟を焼いた。
「最初は白い煙が出ていたんやけど、だんだん色が濃くなりました。それで、いったん火が消えたかなと思った矢先に『ボン!』とプロパンガスが破裂したような大きな音がしました。
千花さんの敷地の裏には無人の家があるんやけど、その壁を壊して消防車のホースを通してひたすら放水していた。結局、消火活動が終わったのは18時ごろやった」(近隣の呉服店で働く女性)
-AD-先代店主・永田基男氏が1946年に創業した千花は『ミシュランガイド京都・大阪』で2010年から9年連続の三つ星に輝く名店。基男氏が他界した'06年からは、長男の雄義氏が店主として切り盛りしていた。
「女将さんからは、白洲次郎夫妻や三島由紀夫が足繁く通っていたと聞いています。最近だと、俳優の津川雅彦さんや渡辺謙さんをお見かけしたことがありますね」(千花の常連客)
同店を幾度となく訪れている作家の藤原敬之氏が言う。
「店に入ると、木のカウンターの向こうに色とりどりの食器がずらっと並べてあるのですが、その中に乾山のような逸品がさりげなく混じっている。
季節の素材を適切な温度管理と繊細な調理で出してくれる店ですが、必ず出てくるのが、ゆばの酒肴と、大葉の細切りと柴漬けをからめたご飯。そして、りんごとオレンジとすだちのミックスジュースが最後の水菓子です。
これが千花の定番でした。あの五感を研ぎ澄まされるような雰囲気をもう味わえないとは、無常感があります」
近隣住民の冷たい目
千花のあった場所は、祇園の中でも特別な一等地だった。
「あのあたりは、『祇園町』とよばれる祇園のなかでも格段にいい場所で、最新の公示地価は1平方メートルあたり195万円にもなります。坪単価に換算すれば、1坪約645万円。
とりわけ、駅近でありながら、路地を入って隠れ家感を演出できる千花さんの立地は絶妙でした」(近隣の不動産業者)
そんな歴史ある名店から立ち上った炎。
悲劇は、開店前に起きた。男性従業員が、1階にある厨房で換気ダクトにこびりついた油汚れを溶かそうとバーナーの炎を当てている最中に、火が油に燃え移ったという。
この出火原因を聞いた近隣の飲食店店主の男性は怒気をはらんだ口調で言う。
「油汚れの始末にガスバーナーを使うなんて、何を考えていたんですかね。汚れがひどくなったら丁寧にふいて落とすのは常識でしょう。油がついたところに火を当てたらどうなるか、子どもでもわかる話です。
千花さんも先代の大旦那のときは厳しくて有名やった。大旦那だったらそんな『手抜き』は許さんかったんと違いますか。
息子さんの代になってから、いろんなとこに露出してハデに商売されてましたけど、お弟子さんの教育とか、いろんなことをおろそかにされてたんとちゃいますか」
Photo by iStockこの店主に限らず、千花の周囲で取材すると、聞こえてくる声は総じて冷ややかなものだった。
「まだ煙の臭いが残っていて、気になって気になって眠れませんわ。火事が起きた日は、土曜の午後で書き入れ時だったのに、店を開けられなかった。この辺の店はみんなシャッターを下ろしてましたよ。
その後も、客足が減っていてホントに迷惑してます。焼くのは魚だけにしてほしいわ」(近隣の小売店の男性店主)
火が消し止められてから3日後、千花へと続く路地には「立入禁止」と書かれた張り紙がはられ、鉄格子の扉が閉じられている。
「店の中は屋根が崩れ落ちて、自慢のカウンターも完全に焼け落ちてしまったそうですわ。延焼した隣のアパートももう使い物にはならないでしょうな」(前出・小売店の男性店主)
-AD-木造の建物がひしめく京都の花街では、一度火が起これば、あっという間に周囲の建物に燃え移る。そのうえ、路地が多く消防車が入りにくいため、消火活動は困難をきわめる。
'16年にも、祇園と目と鼻の先の先斗町で、木造2階建ての飲食店が火元となる火事が発生。延べ135平方メートルを焼いている。
この店を訪れていた客の女性が言う。
「じつは、ミシュランに載るようになったころから、千花さんは外国からのお客さんばっかりになり、土地の人間はよう寄りつかんのですわ。
我々のあいだでは祇園四条の『さか本』とか、お弟子さんがやっているお店のほうがよっぽど評判がいい。
そんなことを知ってか知らずか、千花さんは『ミシュランガイド掲載』と書いた、たいそう品の良いホームページを作られはって、ずいぶん話題になってましたよ。あちこちからちやほやされて、浮かれてたんと違いますかね」
二度と建て直せない
70年以上の歴史を刻んできた店と、地域の信頼を、一瞬にして失ってしまった千花。 だが、周囲からの白い目に耐え忍んだとしても、本当に難儀するのはこれからだ。
延焼したアパートや、消火活動のために破壊された空き家の保有者から、多額の損害賠償を要求される可能性があるのだ。
-AD-ハイペリオン法律事務所の加藤寛久弁護士が解説する。
「民法の『失火ノ責任ニ関スル法律』には、出火元になった人間に重大な過失がなかった場合は、不法行為による損害賠償責任を負わなくて良いと定められています。
しかし、バーナーを使って換気ダクトについた可燃性油の清掃を行っていたのが事実ならば、わずかな注意さえ払えば容易に出火を防ぐことができたと認定される可能性もあり、重過失があると認められて賠償責任を負うことになるかもしれません」
仮に、近隣との禊を済ませ、再建に目処がたったとしても、千花が同じ場所で店を再建することを阻む、祇園ならではの土地事情もある。
「現行の建築基準法では『接道義務』というものがあります。建物が路地の奥にある場合、その路地に2m以上の幅がなければ、建て替えができないんです。
千花さんにつながる路地は2mもありませんから、あの土地に再びお店を出すには、周囲の土地をすべて買いとるしかない。かなり難しいでしょう」(前出の不動産業者)
Photo by iStockこれから待ち受けるややこしい事態に、夫婦で頭を抱えているに違いない。
「週刊現代」2018年6月2日号より
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